交通の未来が見える - Enterprise APIs Hack-Night #9 レポート

企業におけるAPIの利用を促進し、ナレッジをシェアするEnterprise APIs Hack-Nightの9回目はMobiTech(Mobility × Technology)をテーマにウフル社のオフィスにて開催されました。 今回はその開催レポートになります。

激変する自動車産業におけるIDOMの戦略 by 株式会社IDOM 許 直人さん

現在海外ではMobilityに対して非常に積極的になっています。自動産業自体が現在サービス化、自動化という流れの中にあります。IDOMについても主力事業の流通は最優先としつつもCar As a Serviceにも注力しています。例えば自動運転にも手を付け始めていますが、一つ一つの投資金額が大きくなってしまうために慎重にならざるを得ないのが実状です。 今後の事業を考えると、若者は車に乗らず、老人は免許を返還するというトレンドがある以上、大幅な売り上げ増は臨めません。オンライン販売であったり、個人間売買など新しいチャネルの開拓が必須です。例えばIDOMではオセアニアや北米でも車の売買を行っており、日本で買ってニュージーランドで販売するような形も増えています。 そんな中現在はじめているのがノレル(月額購読型の車のレンタルサービス)であったりパスポート(メンテナンスサービス)です。システム開発も積極的で、IT系人材も積極的に採用しています。 中長期的な予測ですが、流通においては個人間売買やオンライン販売が伸びていくと予想しています。また、自動運転でレベル3まで達すれば、乗り換え需要が喚起できると考えています。とは言え2040年くらいには完全自動運転によって事業的に大きなインパクトがあると考えており、我々は危機感を持っています。 現在はシェアリングエコノミーが隆盛で、Uberなどが有名です。これは流通には大きな影響が考えられます。そこで私たちとしても自動車のサブスクリプションを提供し、所有から利用へのリプレイスを図っています。今後、車を販売した後に人に貸すと言ったようなアプローチもできると考えています。 テレマティクスコンピューティングについてはノキアがエッジコンピューティングを推しています。大部分の処理を車内にあるエッジコンピュータが処理し、結果などをクラウドに送るような仕組みです。この分野はとても投資が大きく、政府レベルで推し進める必要があります。いくら日本で使われるようになってもグローバルで再現性があるかも分かりません。今はアメリカ政府が推し進めており、車車間通信を後押しすると発表しています。

自動運転の普及によってエネルギー、環境産業やライフサイクルが大きく変化すると考えています。そのため自動車そのものではなく移動というニーズに対してフォーカスする必要があると考えています。つまりある地点からある地点への移動に注目するのです。2025年には自動運転が10%になると言われています。メディアのバイアスはあると思われますが、今後30年を考えるならばそろそろ情報収集を行っていくべきと考えています。 注目しているもう一つの市場が通信です。移動体通信やIoTは数少ない成長市場であり、車がどう関係していくか研究しています。例えば車の中にギガビットイーサネットの規格を定めようとしています。カメラやレーダー、アクセル、ブレーキに関する情報を通信するのが目的です。そうなればその通信を使ったサービスが一気に広がっていくのではないでしょうか。 現在、私たちは車のフリマアプリ「クルマジロ」を提供しています。在庫が数千台あって、メルカリよりもちょっと多いくらいです。東海と東北の二箇所でテストマーケティング中で、KPIの良い方を採用して全国展開をしていきます。元々自動車売買を行ってきましたので、CtoCを展開するとシェアを食い合うかと思われるかも知れません。しかし誰かが必ずはじめるものなので、だからこそ我々が先んじて行っています。とは言え、実際には買い取りとCtoCの両方が伸びています。買い取りを使うかCtoCを使うかの二択が提供できるようになったのが利点です。 このクルマジロは個人間売買ですが、お客さん同士ではやり取りしません。私たちが間に入って、車の状態などを詳しくチェックします。一台100万円を超えますので、それを個人が提供する情報だけで決定するのは難しいと思います。決済はなるべく短く、サービスはプロレベルというのがクルマジロの特徴です。 自動車のサブスクリプションであるノレルについては2016年12月から担当しています。現在はニーズの確認ができたという段階です。ローンが組めない方や主婦、ヒルズに住んでいる方など様々な利用者がいます。現在は一つのプランだけですが、ユーザのニーズに合わせてサービスを分割し、4月くらいにまた新規登録を再開したいと考えています。日本は法律上、車輌の登録や維持コストがとても大きくなっています。これまで人生でせいぜい10台くらいだった車の所有数が、3ヶ月で乗り換えられるようになります。ノレルについては将来的にAPIを公開して、車の場所や様々な情報を公開していきたいと考えています。 今後肝になるのがデータです。私たちの提供するサービスは一つ一つはそれほど大きくありませんが、大事なのは根幹にある巨大なデータベースです。例えば査定は年間数十万台行っています。そうした基盤データを拡大させて利用していこうと考えています。 自動車産業についてはとてもお金がかかりますし、テクノロジーもハイレベルです。すべて自分たちではできません。そこでベンチャー支援であったり、M&Aを通じてサービスを伸ばしていこうと考えています。 私たちはモビリティ革命で世界をリードしていきたいと考えています。

つかれが"みえる" - 着られるセンサーで車両安全運行管理 by NTTコミュニケーションズ 増田 知彰さん

現在、年間125万人も交通事故で亡くなっています。そんな中、注目されているのが自動運転です。2025年には公共交通にも使われていくと言われています。しかしまだまだ運転手が多いのも事実で、その部分にも注目していかないといけません。バスの運転手は高齢化しており、人手不足も慢性的です。この問題は日本に限らず世界でも共通して起こっています。そこでSAPと私たちで協業し、こうした社会問題を解決していこうとしています。 今回紹介するのがその一つで、2016年10〜11月に京福バスと一緒に行った実証実験になります。20名以上のドライバーに協力してもらい、疲労度やストレスを数値化、可視化することで運行に役立てるデータを提供するというものです。これはバイタルデータだけでなく、タコグラフのような従来の技術とも組み合わせています。 夜行バスの例ですが、終盤になると疲れる率が増えてきます。休憩で一定量回復しますが、終盤になると疲れているのが分かります。周回バスの例では昼便、夜便で事情が違います。例えばバスに老人が多く乗る昼便の場合、万一彼らが転倒すると事故扱いになります。そうならないため緊張度が高くなっています。 一例ですが、ギアボックスが故障してバスが立ち往生したデータがあります。故障した時が一番ストレスのピークになっていますが、実はギアが入りづらくてストレスを感じるのはその前からはじまっていました。こうした予兆が分かっていると未然にアクションを起こして事故が防げるんじゃないかと思っています。 人が運転する間は適宜休憩やダイヤ改正、セルフケア、トレーニングなどによって事故削減につながるだろうと考えています。

今回用いた技術について紹介します。生体情報を測定するウェアは、NTTと東レが開発した機能性素材hitoeを使っています。これは金属繊維がないので着心地がよく、ジェルのような伝達をよくするものも必要ありません。そして、これで心拍を取るのですが、加えて心拍の揺らぎを測定します。この揺らぎ(心拍変動)から緊張度合いが測定できます。よく脈拍が取れるデバイスもありますが、精度については心拍を使った方が高くなります。hitoeは他にも建設現場での体調管理や事故防止を大林組と実証実験を行ったり、ドコモから個人用途のトレーニングアプリを出しています。 なお、こういったデバイスではすべてデータが確実にとれる訳ではありません。データ欠損であったりノイズもあります。どういったデータを取るのか、見せるのかをちゃんと決めたり、ビジネスとの整合性を取る必要があります。 データ収集の仕組みですが、自社のAPI Gatewayの仕組みに載せています。APIとして必要な基本機能は任せられ、サービス毎の機能開発だけに専念できました。さらに大きいのがIAM拡張階層の追加によってサプライヤーやエンドユーザという概念を追加しました。これによって直販と拡販(BtoBtoX)が同時に扱えるようになっています。 データ分析やレポーティングについては特にクレンジングが難しいところですが、私たちではJupyterを使っています。Excelのように簡単にデータを扱えます。再現可能な分析環境が手に入ります。 おまけですが、今回のプロジェクトはグローバルでトライしているため国内だけでやるのに比べて幾つかの違いがあります。例えば欧米の場合は離職率が高いため、プロジェクト憲章や仕様書、ガイドなどのドキュメントをきちんと固めます。誰が辞めてもプロジェクトが継続できるようにしています。また、各国それぞれ法制度が異なったり規制もあります。コミュニケーションについては従来はテレコンやメールでしたが、今回はSlack上で行いました。ドキュメントはMarkdownフォーマットでスムーズ、一体感を持ったコミュニケーションが実践できました。皆さんもぜひ使ってみてください。 私たちはより安心、安全な交通へ貢献をしたいと考えています。

ヒトとクルマと業務をつなげるコネクテッド・カーアプリ「Cariot」のAPI by フレクト 遠藤さん

私たちの提供するサービスはコネクテッドカーアプリのCariotになります。Car × IoTをつなげたものです。デバイスからUXまでを一気通貫で提供するB2B2X向けのサービスになります。 自動車業界や自動車は幅広く、ビジネスで使うとしても営業車、バス、タクシーなど多数あります。そんな中、自動運転にフォーカスするのかなど選択肢が色々ありますが、私たちは今日から使えるというところに重きを置いている。そこでデータを使って自分たちの業務をより良くするCariotを提供しています。 簡単なシステム構成ですが、既存の車にデバイスを差し込みます。そうすればデータをCariotプラットフォームに蓄積するようになります。そして集まったデータを仕事に活かすという仕組みです。デバイスは二種類あって、一つはOBD ITデバイスです。故障診断などに使うポートにデバイスを差し込みます。これで車のエンジン、オドメーター、アクセルの踏み込み量などが取れるようになります。もう一つはシガーソケットに差し込むタイプで、これはGPSや算出した速度をCariotプラットフォームに送ります。 今は毎月新しい機能を開発し、無料で提供しています。そしてAPIを活用して個別の業務に最適化したアプリを提供しています。アプリは全部で3種類あり、Salesforceネイティブ、Salesforceカスタム、フルカスタムとなっています。それぞれの違いは次の通りです。 - Salesforceネイティブ
Salesforceの上でCariotパッケージをインストール。自分の車にデバイスを指すだけでノンプログラミングで今日から使えます。車輌の管理項目を追加も簡単です。 - Salesforceカスタム
自分たちのビジネスロジックに合わせてカスタマイズしてアプリを作ります。CariotパッケージのJavaScript APIを使って拡張します。CariotプラットフォームのAPIラッパー、ユーティリティメソッドを提供しています。 - フルカスタム
スクラッチで作ります。すでにシステムがあって、そこにCariotのデータを投入したいというケースになります。パブリックなWebサイトなどで使えます。

基本的な機能は軌跡と推移が見える走行記録です。急加速や急ブレーキを発見したり、想定していたルートを走っていないなどが分かります。また、走行日報の自動生成もできます。そうやって蓄積されたデータは車輌予約と実績管理にも使えます。会議室の予約をするよう車輌を予約して、実績を管理できます。これは車輌の利用が最適化に繋がります。結果は稼働率レポートになりますので、ムダに使われている、余裕があるといった状態が可視化されます。 さらにヒートマップ機能があり、重み付けして地図上に色分けします。これは待ち時間の可視化であったり、走行のボトルネックが分かります。Salesforceが持っているデータベースにキャリオットが持っているデータを連係させますので、Salesforce上で見られるようになります。走行が長い人、急発進や急ブレーキも分かります。 現在、約20社に導入しています。導入自体はゴールではなく、そこから業務が改善し、エンドユーザのワークフローがよりよくなるのを目指しています。カスタマサポートとして継続して提案をしています。ある例では営業車輌管理として226台の走行データを管理するのに使っています。その結果、1台あたり2時間くらいかかっていた報告作業がすぐに終わるようになりました。また、報告の督促も必要なくなりました。そして、車輌の実績がデジタル化されることでムダな車輌が分かるようになり、保有台数が13台減りました。別な例ではダンプカーの運行管理があります。土砂の積み卸し、往復回数などを自動で集計できるようにしたことで業務の効率化が進みました。 次にAPIについてです。これはビジネスと技術の二つの側面があると考えています。まずビジネスについてです。まず最初に何を作るのか決めますが、この時に使いやすさや整合性、一貫性を保つ必要があります。データと人や業務の間には少なからずギャップが存在します。そのためシステムの都合に合わせたデータ形式ではなくユーザ体験を重視して作る必要があります。APIの提供はゴールではなく、スタートです。使い勝手の良いAPIを提供し、使ってもらうのが大事です。 技術の視点では後方互換性の維持を重視していますが、将来どういったAPIが必要になるか分からないので難しい所ではあります。ただ、互換性が崩れるパターンとしては「型を変えたい」「名前を変えたい」「フィールドを削除したい」など決まったパターンが多いので、こうならないためのアンチパターンを知っておくと良いかと思います。パステルの法則に従って、受信は柔軟に送信は厳密に行うのが基本です。私たちのシステムではAWSのAPI Gatewayを使っています。API Gatewayがすべてのリクエストを受けるシングルエンドポイントになっているのが大事です。 APIのケーススタディですが、到着予測APIというのを開発、提供しています。元々のきっかけは配達業者にコンタクトを取った時に、渋滞などのトラブルによって配送が遅れたり、連絡が遅れて迷惑がかかるという課題がありました。この時、ドライバーは遅れていることで大きなストレスがかかります。大事なのは荷物を届けるとともに、事故などを起こさないサービス品質もあります。顧客は荷物が来ないことにストレスを感じますので、車が今どこにあるか分かったり、後何分で来るか分かれば安心できます。 そしてAPIではルートを登録するAPIや車の現在位置を返すAPI、そしてエリアへの到着や出発をトリガーとしてプッシュするWebhook APIを実装しました。これによってドライバー、荷受け主ともに業務改善と安心につながりました。 コネクテッドカーは人、もの、コトをつなぎ、社会に還元される仕組みです。私たちはあるべき未来をクラウドで形にし、組み合わせによる新しい体験を実現したいと考えています。自前の車載デバイスからのデータに限定せず、生体データや重量、積載量、温度、天気、オープンデータ、音声などを組み合わせてサービスを提供していきたいと考えています。


発表の後、懇親会が同会場内で行われました。MobiTechはとても幅広い市場だけに可能性も大きいと言えます。それだけに参加者の会話も弾んでいました。 当日の動画はYouTubeにアップされています。ぜひご覧ください。 今後も継続的にイベントを開催していきますので、ぜひご参加ください。

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