大企業ほど進めて欲しいAPI戦略

APIというとシステマチックな仕組みなので、中小企業とくにスタートアップが取るべき施策であるかのように感じてしまうでしょう。しかし、実際のところ大企業ほどAPI施策に向いています。この記事ではその理由について取り上げたいと思います。

数多くある事業

大企業においてはスタートアップと異なり、複数の事業展開をしているケースが殆どです。そして、それらは全く関係のない事業同士ではなく、シナジーを生むように設計されているはずです。そして顧客によっては複数のサービスを契約しているでしょう。

しかしそのシナジーは自社内部に留まってしまっていたり、ごく限られた範囲でしか生み出されていないことが殆どです。各事業においてAPIを公開できれば、顧客企業は自分たちのワークフローやニーズに合わせたシナジーを自分たちで生み出せるようになります。

すべての顧客のニーズを自社だけで満たすのは困難です。しかしAPIによって利用企業自身がカスタマイズできる仕組みを提供できれば、今まで考えていなかった新しい付加価値が生まれることでしょう。

すでにある膨大なデータ

APIは主に二つの役割があります。一つは機能を提供するもので、画像を加工したり、AIで分析するといったものです。もう一つはデータベースに存在するデータをユーザの操作によって切り出して提供するものです。大企業ではすでに自社内で大量のデータが存在しているので、それらをうまく活用することで新しいビジネスにつながる可能性があります。

スタートアップでは自社データが存在しないために、データの追加/更新をAPIで提供します。それを通じて日々データを蓄積する必要があります。大企業の場合、データの追加/更新については既存のワークフローの中で行われていくでしょう。そして、まずその提供方法について考えれば良いのです。

固まったワークフロー

APIによって処理が行われる時、ワークフローが変わるとAPIの処理内容も変わってきてしまいます。APIはシステムから呼び出されるので、あまり頻繁に更新が重なってインタフェースが変わるのはオススメできません。その点、大企業で昔からワークフローが変わっていないならば、それをAPIとして形作るだけになります。

ただしあらゆるワークフローに対応しようとしてパラメータが増えてしまうのは避けた方が良いでしょう。まずメジャーなワークフローに対して少ないパラメータだけで対応できるようにし、徐々に拡張していくのが理想です。

旧システムからのリプレイス

大企業でよくあるのは5年または10年に一回のシステムリプレイスです。このタイミングはAPIを開発する良いチャンスになります。既存業務を見直す際に、APIファーストの視点を取り入れましょう。API化することでデスクトップだけでなく、Webブラウザやスマートフォンなどマルチデバイスでの展開も容易になります。

APIファーストの視点で業務を見直すのは、入力操作などのUI/UXとシステムデータとの分離につながります。そうすることでシステムを簡素化し、メンテナンス性向上につながります。リプレイス案件は多くの企業にとって頭の痛い問題ですが、これを機にぜひAPIファーストの視点を取り入れてください。

他社との差別化

既存のビジネスにおいてライバル企業が存在しないということは殆どありません。各社でシェア争いをしていることでしょう。そうした中、APIの有無は差別化要因につながるようになっています。カスタマイズ性を高めたり、顧客のシステムとダイレクトにつながるようになります。

APIによるシステム連携は、他社への乗り換えも困難にします。契約を置き換えるだけでなく、システムの変更も必要になるからです。だからこそAPIを用意し、顧客に積極的に使ってもらうことができれば、それだけ他社との差別化になっていくでしょう。


大企業の特徴として、多数のプロダクト/サービスの存在、膨大な蓄積データ、ワークフローの固定化、既存顧客といった点があります。これらをポジティブな要因としてとらえ、API戦略によって他社との差別化につなげていくのが肝心です。

APIは何も小回りの効くスタートアップ企業だけの施策ではありません。大企業こそぜひ取り組んで欲しいと思います。

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