Black Hat Europe 2019に参加してきました

12月上旬にロンドンで開催されたBlack Hat Europe 2019に技術開発部セキュリティユニットの伊藤・山本が参加してきましたので報告します。

尚、Black Hatについては以前の記事、「Black Hat USA 2019 / DEF CON 27に参加してきました」にも詳細を掲載しておりますので併せてご覧ください。

Black Hat Europe とは

Black Hatは世界最大級の商業系セキュリティカンファレンスで、毎年USA、Europe、Asiaの三地域で開催されます。Black Hat Europeの今年の会場は、Excel Londonという幕張メッセのような大規模展示場でした。規模はBlack Hat USAよりも劣るものの依然として強い集客力があり、今年は100ヵ国以上の国からの参加がありました。

カンファレンスの構成もUSAとおおよそ同じでトレーニング(講義)、ブリーフィング(講演)、アーセナル(開発ツールの実演)、ビジネスホール(企業による見本市)で構成されます。2日から4日間のトレーニングがまず最初に行われ、その後の2日間でブリーフィング、アーセナル、ビジネスホールが並行して行われます。今回私達はトレーニングには参加せず、後半のブリーフィング、ビジネスホール、アーセナルから参加しました。

Black Hat Europe 2019でみたセキュリティ動向

Black Hatでは、Web、暗号、IoT、マルウェア、ネットワークなど満遍なく様々なテーマの発表があります。去年少なかったExploitやReverse Engineering、Web App Secなどのテーマは今年は例年と同じ5件程度の講演数があり、やはり根強く関心のあるテーマであることが伺えます。コミュニティ活動の発表も昨年から1つのジャンルとして確立されたようです。また日本人の発表もブリーフィングで2件、アーセナルで1件ありました。

講演のジャンルだけでは今年の傾向がはっきりしませんが、ここ数年でよく耳にするようになったRed TeamやIoTなどは講演を聞いていてもホットワードな印象を受けました。またFunction as a service、Slackなどを開発に取り入れた場合のセキュリティをテーマにした、目新しい講演もありました。一方でMachine Learning関連の講演はほとんどなかったことも個人的には印象に残りました。これらについては後半でもう少しお話します。

企業ブースではCrowdStrikeやRecorded Futureなど、全体的にベンチャー色が強い企業が揃っていました。一方で大企業ではFacebookやLenovoが出展していたものの、FireEyeやCiscoといった「老舗」の出展はなく、USAとは異なる印象を受けました。

以下では印象的であったテーマ別にBlack Hat Europe2019を振り返ってみます。

Red Team/Blue Team

Black Hat Europe 2019は、基調講演 "Blue to Red: Traversing the Spectrum"(筆者訳:「BlueからRed - スペクトルの横断」)で始まりました。スピーカーのAmanda Rousseauは業界では有名なセキュリティエンジニアで、これまでフォレンジックやマルウェア研究を専門として政府や民間企業で働き(Blue - 防御側)、現在はFacebookのRed Team(攻撃側)で活躍している方です。講演のなかで彼女は、セキュリティ業界で起こっている技術の過度な専門化(overspecialization)をテーマに、BlueからRedへとキャリアを歩んできた彼女なりの教訓や知見を話してくれました。

数年前、セキュリティ業界ではSandboxといった防御側の技術に注目が集まっておりましたが、今は攻撃側であるRed Teamがもてはやされており、セキュリティ技術の移り変わりの速さに驚きます。すると次は何がくるのか気になるところではありますが、彼女はこの過熱する技術動向を憂えてOVERspecialization(注:強調は筆者)という表現をしたのではないかと思われます。彼女は講演中、繰り返し「ツールを信じるな(信じすぎるな)」「基礎を大切に」と話していました。こうした教訓は彼女の講演に限らずよく言われていることかもしれません。ですが、業界の最先端にいるエンジニアの言葉として捉えると、深みは増すように思います。基調講演の動画はこちらでご覧になれます。

AI/ML(Machine Learning)

AI/MLは日頃よく耳にすると思われますが、2日間に渡って様々な講演を聞いたなかでは意外なことに殆ど登場しませんでした。見聞きした範囲でAI/MLに関連していたセッションも、IoTデバイスの脆弱性を見つける手法として暗に用いられていたものくらいです。全てのセッションのタイトルを確認しても、AI/MLをキーワードとしているものはなく、ブリーフィングセッション全体であまり取り扱われなかったようです。

しかしながら閉会のパネルディスカッション(Locknote)では、AI/MLの投稿は多数あったと登壇者が話していました。実際、AI/MLのセキュリティ分野への応用はこれまでも多くの研究者やエンジニアが取り組んでおり、例えばマルウェアの分類やログを用いた未知の攻撃の検知(異常検知)といった研究があります。にも関わらず今回のBlack HatでAI/MLに関連するセッションが殆どなかったことから、これらをキーワードとする投稿はあまり採択されなかったようです。採択されなかった理由は特に言及されていませんでしたが、Black Hatは情報セキュリティのカンファレンスであるため、AI/MLをキーワードとする内容はBlack Hatでは適切とはみなされず、採択されにくいのかもしれません。

Endpoint

Microsoft Office、Adobe Reader、Google ChromeといったEndpoint(クライアント端末)で利用されるアプリケーションは、非常に幅広いユーザに利用されていることもあり、攻撃者に常に狙われ悪用されてきました。アプリケーション側も対策を施しますが、その対策は根本的ではなく暫定的であることが殆どです。このようなサイバー攻撃とセキュリティ対策の関係は、いたちごっこにしばしば例えられます。

今回セッションを聞いていて感じたことは、先のアプリケーションのセキュリティ対策がより根本的なものへと発展しつつあるということです。いくつかの講演では、いたちごっこのようにも見える攻撃手法の変遷を辿ることで、攻撃手法をいくらか体系化し、それら攻撃手法への対策法を提案または実装していました。Microsoft Officeのマクロを使った攻撃とその防御の発表では、その変遷概要を示した後に(下記スライド参照)、攻撃検知手法を簡潔に定式化し実装していました。(スライドは「Advanced VBA Macros Attack & Defense」より引用)

IoT/Platform

IoTとそのPlatformは、Endpointのセキュリティ対策と比較すると、攻撃側も防御側もまだあまり研究されていないようです。例えばAlexa(Amazonが開発したスマートスピーカー)を利用したPlatformへの攻撃といった、これまであまり事例がなかった新しい攻撃手法を報告するセッションは幾つかありました。他方、家電への脅威を観測および分析するシステムを開発しながらも対策は次のステップであることを講演者は明かしていたり、そのセッションの質疑でコストを気にかける質問があったりと、各社IoTへの対策とコストに課題を抱えている様子が伺えました。

まとめ

今回の記事ではBlack Hat Europeについて紹介しました。さまざまなテーマでの講演があるBlack Hatは自分の専門分野をさらに深掘りするだけでなく、知らないテーマについても知るきっかけになります。Black Hatは年に3回開催されていますので、機会があったらぜひ参加してみてください。

© NTT Communications Corporation All Rights Reserved.