はじめに
こんにちは、イノベーションセンターの梶江、原田、佐瀬、江崎、山田です。 NTTコミュニケーションズ株式会社 (以下、NTT Com) は、日本最大級のネットワーク展示会である 「Interop Tokyo 2024(会場:幕張メッセ、会期:2024年6月12日〜14日)」 において構築されるShowNet1に対し、昨年に引き続き2コントリビューターとしてローカル5G(以下、L5G)システムを提供し、実験試験局の運用に成功しました。
今年はトランスポートNWにNTT研究所のFDN (Function Dedicated Network :機能別専用NW)を使用。オープン光伝送NWを用いた柔軟性のある確定通信を実現。UPFについても、NTT研究所がDPU(Data Processing Unit)を用いて内製開発したdUPF (distributed UPF)3を使用しました。
これら新技術と、AWS上にデプロイされたドコモの5Gコア(5GC)をQmonus SDK4からあわせてコンロールすることで、より高度なネットワークスライシング制御にチャレンジ。L5Gの特徴である高速大容量・超低遅延・多数同時接続を活かした高精細な音声・映像伝送をShowNetテクニカルツアーという実例で実現しました。本記事ではその構成やスライシング制御手法、技術的なチャレンジ、無線性能測定結果について解説します。
マルチベンダーにおける伝送連携制御
私たちは、高度な情報処理・高機能通信を場所・利用形態を問わず提供可能とする基盤を構築し、端末/デバイス・NW・アプリケーションをエンドツーエンドかつシームレスに連携させることを目標としています。それを達成するには、高機能で多様なネットワークスライシングの要件に対応する5GCと、伝送区間で確定性通信を実現させる仕組み、それらを制御する技術が必要になります。 ネットワークスライシングの説明は過去の記事が参考になるため、詳細記載を省略します。今回はAirspan社製の基地局を用いたローカル5G環境を構築。ローカル5Gで使用される周波数帯はライセンスバンドであるため、法令に則って実験試験局免許を取得し運用しました。そのNWで、NTT内製のdUPF、FDN、Qmonus SDKを組み合わせ光伝送レイヤも含めたエンドツーエンドのスライス制御にチャレンジしました。下図が構成となります。順番に解説していきます。
NVIDIA DPUを用いたNTT内製UPF
本構成のUPFでは、NTT ネットワークサービスシステム研究所が内製開発したdUPFを使用しました。NVIDIA社DPUにUPF処理を完全オフロードすることで、5GCと連携する、小型軽量・高性能・高信頼・低消費電力なUPFを実現しました。 また、UPFとしての転送処理だけでなく、NAT・FW・VPN・DPIなど、キャリアネットワークならではの付加価値機能を含め、オープン化が進むDPUハードウェア上で実装・展開することで、ユーザ端末環境やサービスの要件・状態に合わせ、必要となる最適なNW機能・リソースを柔軟に構成可能です。
FDNによる確定通信の実現
基地局〜UPF、UPF〜DN間のトランスポートNWは、NTT ネットワークサービスシステム研究所が開発したFDNによって生成された光伝送路を含む通信路を使用しています。FDNでは、APN5上に様々なサービスを収容する専用NWをサービス毎に構築し提供します。APNでの動的な波長制御による伝送パスの割り当てを活用し、FDNに収容するデジタル信号や利用するアプリの特性に応じた最適な専用NWを構築。さらには、無線基盤・コンピューティング基盤との連携制御も目指しています。
今回は、FDNを構築する際に必要となるロスレス・ジッターレスといった確定通信をエンドツーエンドで実現するためにFDN Bridge(WhiteboxTransponder+WhiteboxSwitch)とそれを制御するためのFDNコントローラを用いました。 FDNコントローラはオーケストレータやアプリからのパスリクエストを受けWhiteboxTransponder及びWhiteboxSwitchを制御することで、200G/400Gといった広帯域の波長パスに対して要求された通信帯域分だけの通信リソースを割り当てることを可能としています。また、APNだけではPoint-to-Pointの通信となってしまいますが、FDN Bridgeで利用する波長パスを選択・振り分けることでより柔軟なネットワーキングを可能としています。NTT ドコモのコントリビューション部分については、 NTTドコモ の ENGINEERING BLOG記事をご覧ください。 dUPFの性能測定についてはこちらで言及されています。
Qmonus SDKを用いたオンデマンドなスライス払い出し
ユーザのリクエストに応じてネットワークスライスを払い出すには、5GC、トランスポートNW、UPFといった異なるドメインの装置それぞれに設定を適用する必要があります。
各装置に対して設定するオーケストレータはQmonus SDK(NTT Com内製のマイクロサービス開発フレームワーク)を採用しました。Qmonus SDKは異なるマイクロサービス間の横断したトランザクション管理を特徴としています。5Gシステムでのスライス操作では、1つの装置に対して複数の設定を直列に投入したり、装置間を跨って設定を投入しなくてはなりません。Qmonus SDKにより5GC、dUPF、FDNそれぞれの装置が持つAPIインタフェースに対して順次設定を投入し、装置間をまたいだトランザクションを保証します。
実験試験局の運用
昨年に引き続き実験試験局免許申請を行い、電波を発波する実験試験局を運用しました。チームメンバーの80%以上が無線従事者免許を保有しており、電波法を尊法し、輪番を組んで運用を行いました。 5G基地局となるgNB装置は廉価且つ簡易な構築・導入が可能な「RU/CU/DU一体型」を特徴とするものを採用。Airspan社の屋内型一体型gNBであるAirVelocity 1901をInterop Tokyo 2024 の会場(幕張メッセの展示ホール4)に設置しました。今回は5Gにおける時刻同期方式にPTP(Precision Time Protocol)を用いました。 PTPは専用の時刻同期用パケットにタイムスタンプを埋め込み、システム間で交換することで双方の時刻を同期する方式です。 これにより1台のPTPタイムサーバーから光ファイバケーブル経由で、高精度な時刻同期を実現できました。
無線性能測定
AirVelocity1901のダウンリンク(以下DL)とアップリンク(UL)の無線性能であるRSRP vs スループットを測定しました。DLのmaxスループットは約650Mbps、ULは約65Mbpsという結果となり、両者ともに高い速度性能が発揮できていることがわかりました。また、DL・UL共に受信電力であるRSRP値が約-100dBmまでmaxスループット値が維持でき、ある程度基地局から離れても最大速度で端末を使用できることが分かりました。
幕張メッセの展示ホール4のShowNetツアーブース周辺での受信電力RSRP値の測定も行いました。ツアーブース内と周辺でRSRPが約ー100dBm(前述のmaxスループットを維持できるRSRP値)を維持しており、ShowNetツアーで音声・映像配信を行うのに問題無いローカル5Gカバーエリアとなりました。
おわりに
この記事では、Interop Tokyo 2024(会場:幕張メッセ、会期:2024年6月12日〜14日)において構築されたShowNetにおける、光伝送レイヤも含めたエンドツーエンドのスライス制御の取り組みを紹介しました。今後は、今回の各種性能測定の成果を踏まえ、より多種多様なユースケースに対応できるネットワークスライシングの方式や、NTT Comのネットワークサービスへの応用について検討していきます。この記事に登場したローカル5G基地局はShowNetブースNOCラックの側にある背の高いトラスの先端に設置されています。 是非会場に足を運びご覧になってください。
- Interop Tokyo への出展社がインターネットへの接続性を利用して製品の動態展示のほか、来場者のインターネットへのアクセスとしても利用されるネットワーク。また、さまざまな機器・サービスの相互接続性検証を実施するとともに、近未来のサービスアーキテクチャを実際に動かしている形で見ることができる日本最大規模のライブネットワークデモンストレーションでもあります。 https://www.interop.jp/2024/shownet/↩
- 昨年ShowNet2023でも我々はネットワークスライシングの取り組みを実施しました。 https://engineers.ntt.com/entry/2023/06/14/084318↩
- 6G Computing Architecture: Distributed, Software Defined Accelerated and AI-enabled(https://www.nvidia.com/en-us/on-demand/session/gtc24-s61898/)↩
- Qmonus SDK: NTT Com内製のマイクロサービス開発フレームワーク↩
- APN :端末からネットワークまで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、エンドツーエンドでの光波長パスを提供する波長ネットワーク↩