Hewlett Packard Enterprise (HPE) が主催する最大のテクノロジーカンファレンス、HPE Discover 2024 が 2024年6月17日から20日に米国ラスベガスで開催されました。
この記事では HPE Discover 2024 に聴講参加して得られた知見について、主にサーバー関係のものを中心に共有します。
- はじめに
- HPE Discover 2024 とは
- Keynote: Intelligence has no limits
- 新サーバーの発表
- 興味深かったセッション
- Showcase
- 交流イベント
- Japan Session
- おわりに
はじめに
こんにちは、クラウド&ネットワークサービス部の福岡 です。
普段は SDPF(Smart Data Platform)クラウドの IaaS である、ベアメタルサーバー・ハイパーバイザーサービス 開発のソフトウェアエンジニアをしています。
今回、これらのサービスの継続提供にあたりサーバー周りのトレンドや動向を把握するために、HPE Discover 2024 に参加しました。
HPE Discover 2024 とは
HPE Discover は HPE が年に一度主催する最大のテクノロジーカンファレンスであり、HPE が目指していくビジョンや新サービス、新製品の発表が行われる舞台です。
世界各国から HPE のテクノロジーに興味を持つ多くの参加者が集うことで知られており、今年は日本からも100名以上が参加しました。
会場も並大抵の広さではなく、今年は 11.5万平方メートル(東京ドーム2個分以上)の展示面積を持つ、米国ラスベガスの The Venetian Expo & Convention Center で開催されました。
プログラムは 「エッジ」「ハイブリッド・クラウド」「AI」の 3つのトピック分野を中心に組まれており、300以上のセッション(講演)とデモが提供されました。
セッションはいくつかの種類に分かれており、大部屋で開催される General Session、Spotlight Session では、各分野のリーダーによるトレンド、パートナーシップ、イノベーションについての紹介が行われます。 一方、比較的小さい部屋で開催される Breakout Session では、個別的な製品紹介、事例紹介、ベストプラクティスの共有などが行われます。
Keynote: Intelligence has no limits
HPE CEO の Antonio Neri による keynote の内容は、驚くほど AI に関連することが数多く取り上げられていました。 講演では HPE 社製の GPU サーバーを使用したさまざまな産業界の事例紹介をはじめとして、AI によって企業の生産性を向上させ、イノベーションを加速することの重要性が語られました。
講演の後半には NVIDIA CEO の Jensen Huang が登場して、HPE と NVIDIA とのパートナーシップを強化していく旨が述べられ、HPE Private Cloud AI という新しいソリューションの発表がありました。
なお、今年の keynote は昨年にオープンしたばかりの巨大映像施設 Sphere で開催されたのですが、映像のあまりの解像度の高さと迫力に圧倒されっぱなしでした。
Keynote の内容は YouTube に公開されているので、興味ある方はご覧ください。
新サーバーの発表
期間中には新しい HPE ProLiant シリーズのサーバーが4種類発表されました。 そのうち 2種類が AI 向け、残りの2種類がサービスプロバイダー向けです。
AI 向けサーバー
HPE ProLiant Compute DL380a Gen12 は、最新の GPU NVIDIA H200 を搭載した初のサーバーです。 NVIDIA H200 は前のモデルの NVIDIA H100 と比較して、メモリサイズが2倍、バンド幅が 1.4 倍と性能が向上したモデルです。 このサーバは 4U の筐体に最大で 8個の NVIDIA H200 GPU を搭載可能であり、GPU 同士は 2-way または 4-way の高速インターコネクト NVLink による接続が可能となっています。
HPE ProLiant Compute DL384 Gen12 は、 Grace Hopper として知られる NVIDIA GH200 チップを搭載した初のサーバーとなります。 NVIDIA GH200 は Arm アーキテクチャの NVIDIA Grace CPU と NVIDIA Hopper アーキテクチャの GPU が密結合している画期的なモデルであり、CPU と GPU 間で共有された大規模なメモリ空間を提供します。
サービスプロバイダー向けのサーバー
HPE ProLiant DL320 Gen12 SP と HPE ProLiant DL340 Gen12 SP は、電力あたりのパフォーマンス効率の高さが特徴としていて、 Sierra Forest と呼ばれる最新のサーバー/データセンター向けの CPU、Xeon 6 プロセッサを搭載した初のサーバーです。 Sierra Forest は Xeon 6 プロセッサーのうち、電力効率の高い Eコア (Efficient Core) を採用したモデルであり、1つのダイあたり最大 144個もの CPU コアを搭載しながら、既存のチップと比較して同程度の消費電力を実現すると期待されています。 DL320 と DL340 の違いは筐体のサイズであり、前者は 1U サーバー、後者は 2U サーバーとして提供されます。
興味深かったセッション
個人的に興味深かったセッションの内容を紹介します。
The future of liquid cooling for data centers
(Speaker: Jason Zeiler)
1つめは冷却技術に関するセッションです (動画はこちら) 。
昨今の CPU、GPU は高性能化に伴い発熱量が増加しているため、効率的に冷却することが求められています。 これまでの冷却方式は、ファンを使った空冷方式が主流でしたが、最近では空気よりも熱伝導率の高い液体を用いて熱を取り除く 液冷方式 が注目を集めています。
液冷方式は、空冷方式と比較して冷却能力が高く、ムラのない速やかな冷却を実現するため、高い密度でサーバーを配置したサーバーラックの冷却にも対応できるようになります。 また、電力効率が高く少ない電力で冷却が可能であるため、二酸化炭素の排出量の削減に貢献します。 さらに、冷却ファンの使用を最小限に抑えられるため、静音性が高いこともメリットです。
この講演では、液冷方式の例がいくつか紹介されました。
HPE RDHX , HPE ARCS は従来の冷却方式であり、巡回する冷却水がラック内の空気を冷却し、その冷却された空気がパーツを冷却する方式です。 一方、最新の方式の Direct liquid cooling (DLC) は、冷却プレートを使用して直接パーツを冷却する方式であり、冷却能力、効率ともに従来の方式を上回ります。
DLC は従来の方式と組み合わせて使用することもできますが、特に 100% の冷却を DLC のみで行なっている HPE Cray EX2500/EX4000 シリーズは HPE Discover 2024 の目玉であり、展示会場にも目立って展示されていました。
Transforming management with Open Source Firmware for SPs
(Speaker: Damien Lagneux, Richard McQuaide, and Jean-Marie Verdun)
2つめは BMC (Baseboard Management Controller) に関する発展的な内容のセッションです。
馴染みのない方も多いかもしれませんが、BMC は遠隔で筐体の電源操作やハードウェアの状態を監視するための規格であり 、我々の開発しているベアメタルサービスの中核を担う技術です。
BMC は各ベンダーによって乱立しており、有名どころでいうと HPE 社製の iLO、Dell 社製の iDRAC、Fujitsu 社製の iRMC などがあります。それぞれが独自の機能とインターフェースを持ち、ベンダー間で必ずしも互換性が担保されているとは限りません。また、中身がブラックボックスでデバッグが難しく、古い筐体でベンダーがサポートを終了するとセキュリティ的に脆弱になるという課題もあります。
これらの課題を解決するため、最近 OpenBMC という Linux ベースのオープンソースの BMC 実装が提唱されています。 OpenBMC は標準化されたインターフェースを提供しており、オープンソースであることからベンダーに依存することなく、容易にカスタマイズやデバッグ、およびセキュリティ更新を実施できます。
ただし、現状 OpenBMC は初期状態の筐体にはインストールされていないため、後から OpenBMC をインストールしてパッケージを最新にアップデートする作業が必要になります1。 この講演では、このような筐体が数多く存在する環境でも、即座に最新の OpenBMC を使用できるように、OpenBMC を iSCSI デバイスからネットワークベースで立ち上げる方法が紹介されました。
後日発表者の Jean-Marie Verdun 氏とお話しする機会がありましたが、「OpenBMC は尖った技術だから好き嫌い分かれるだろうけど、とにかく試してみてほしい」と言われたのを覚えています。
興味を持たれた方は、関連動画 remote booting BMC: an OpenBMC / iSCSI example を参照してみてください。
Showcase
HPE Discover 2024のショーケースの充実ぶりは凄まじく、数万平方メートルの展示空間に多くの企業が製品の実機展示やデモを行っていました。
製品やサービスに関する専門家からインタラクティブに説明を受けられるのが個人的に楽しかったので、セッションの合間を見繕って度々足を運びました。 軽食やドリンクコーナーも至るところにあり、非常に快適な空間でした。
Showcaseでは ガイドツアー も充実しており、英語だけでなく日本語、スペイン語、ポルトガル語など、複数の言語で一日に複数回開催されていました。 ガイドツアーの内容はほとんどがAIに関するもので、自動車の生産工場のオペレーションをAIで効率化する動画を見たり、LLMのトレーニングに必要な高速大容量ストレージについての話を聞いたり、keynoteで発表のあったHPE Private Cloud AIのデモを見ることができました。 特に興味深かったのは、HPE Aruba Networkingのデモで、AIによってネットワークの異常な振る舞いを検知したり、環境に応じたコンフィグを自動生成する様子を実際に見ることができたことでした。
Showcase には、開発中の製品、サービス、ソリューションを独占的に覗き見できる CDA Zone という区域もありました。 この区域はカーテンで覆われており、入り口で具体的な内容を外部に漏らさない旨の誓約書にサインすることで初めて立ち入ることができます。 普段は見ることができないサーバーの深い部分を知ることができ、とても興奮しました。 区域自体は小さく、見逃しやすいため、次回以降に参加される方は注意して立ち寄られることを是非おすすめします。
交流イベント
HPE Discoverでは、Peer-to-Peer Program というプログラムが提供されており、参加者同士で交流する機会があります。 このプログラムは、 1対1形式 と ラウンドテーブル形式 の 2種類がありました。
前者の1対1形式の交流では、同じようなサービスを提供している事業者の方とじっくりと対話して情報交換ができました。 自社と同じ課題を抱えていることや、課題に対する異なるアプローチについて知ることができ、非常に貴重な機会でした。 また、ラウンドテーブル形式の交流では、HPE 社 のシニアリーダーを含む白熱した議論を目にし、HPE 社のビジョンを体感して大きな刺激を受けました。
これらとは別に、HPE 社のエクスパートと個別のトピックについて議論する機会も何回か設けていただき、直近のサーバーのトレンドについて詳細な情報を得ることができました。
エンタメ寄りのコンテンツも充実しており、夕食の時間帯の Reception や Celebration では、バンド演奏やアルコールが提供される中で、さまざまなバックグラウンドの方と交流を深めることができました。
特に18日の HPE Discover Celebration では、貸切りの Sphere にて、アメリカの超人気ロックバンド Dead & Company の生演奏を堪能できたのは、忘れられない思い出になりました。
海外カンファレンスへの参加は旅費もかかり、時差を乗り切るのも大変ですが、現地にわざわざ赴くことの価値は交流イベントにあることを強く実感しました。
Japan Session
最終日には Japan Session と称するイベントがあり、2時間に渡って日本からの参加者向けに4日間の内容のサマリーが紹介されました。 HPE Discover にはあまりにも多くのコンテンツがあり、とても4日間で全てを吸収するのは難しいと思っていたので、Japan Session はありがたいイベントでした。 交流イベントや他の予定と被っていて聞けなかったセッションの内容や、理解が追いつかず消化不良となっていた部分のフォローアップができて助かりました。
おわりに
目先の業務から離れてひたすらインプットできて、視野を広げることができる良い機会でした。 朝から晩まで予定で埋まっている日々で、非日常で濃密な時間を過ごすことができました。
また、HPE 社員の方々のお力添えもあり、多種多様な交流イベントに参加できたのはとても幸運でした。この場を借りてお礼申し上げます。
HPE Discover 2024 のセッションの一部の動画は YouTube の HPE 公式チャンネルに上がっていますので、この記事を見て興味を持たれた方は是非動画などをチェックしてみてください!
- HPE ProLiant Gen11 の一部の筐体には、初期状態では iLO6 が入っていますが、後から OpenBMC を上書きインストールしたり、逆に iLO6 を再インストールできます。↩