開発の舞台裏〜Active Multi-access SIMが生まれるまでの挑戦と特許取得 [Active Multi-access SIM開発シリーズ 第2回(全3回)]

こんにちは、クラウド&ネットワークサービス部の古賀です。普段はクラウドサービスのサービス企画を担当するかたわら、デザインプロセスを業務に取り入れたサービス改善などの活動に参加しています。
前回の記事「 1枚のSIMでキャリアを冗長化!Active Multi-access SIMの特長と仕組み 」では、Active Multi-access SIMの特長や仕組み、活用シーンなどをご紹介させていただきました。第2回は本サービスの開発秘話について、サービス企画チームのメンバーにインタビューしましたので、その模様をお届けします。

きっかけは数年前に起きたモバイルネットワークサービスの大規模故障。

多くの人が大規模故障の影響を受け、通信できなくなった携帯を手になすすべもなく何時間も復旧を待つしかありませんでした。モバイル通信の冗長化の必要性が浮き彫りになった大規模故障をきっかけに、「課題解決に向き合おうとした通信事業者NTT Comの技術者の発想力」×「『IoTで日本社会をよくしていきたい』という熱い想い」から生まれたNTT Comの「Active Multi-access SIM(以下「マルチアクセスSIM」)」サービスの開発秘話と、特許を取得するまでの紆余曲折について、開発に関わったNTT Com 5G&IoTサービス部でサービス企画を担当している永作さん、春原さん、小山さんにお話を伺いました。聞き手は販売企画を担当している高野です。

マルチアクセスSIM開発のきっかけ

高野:マルチアクセスSIMの開発が始まったきっかけを教えていただけますか?

永作さん:一番直接的なきっかけは2022年に他社で発生したモバイルネットワークサービスの大規模故障ですね。こうした故障に備えた対策はデュアルSIMの採用などさまざまな方法が考えられますが、より手軽にIoTでのモバイルキャリア冗長を実現できる手法を検討しました。 通信障害で業務が止まって大変だったというお客さまの話を聞き、とはいえIoTの環境は冗長化したくなったからといって簡単に機器の入れ替えができるものではない状況の中で、"通信事業者として何か手を差し伸べられるものはないだろうか?"という思いが強くなり、IoT Connect Mobile Type Aで提供しているマルチIMSI方式1をうまくキャリア冗長に役立てられないか?と考えたのがきっかけです。

高野:あの障害は一大事で記憶に残っていますし、マルチアクセスSIMはそれがきっかけで生まれたサービスだとぼんやりとは知っていましたが、そういう思いがあったということは初めて知りました、すごいですね。

永作さん:その年の初秋に、マルチIMSI方式での商用提供実績を有するTransatel(トランザテル)2 R&D担当者と共にマルチIMSI方式に関するワークショップを行い、本方式によるキャリア冗長SIMの実現可能性について議論しました。また、2022年秋冬頃の初期検討以来、マルチアクセス SIMの仕組みと深くかかわるSIMアプレット3のチームとは、深く協力・議論をしてここまでやってきました。

開発のこだわりポイント

高野:サービスを実装するときに重視した要件は?

小山さん:多くの端末で利用できる、SIMが自律的に切り替わり自動で使える、ということを重視しました。 IoTは用途もニーズもさまざまですが、自動化を志向されるお客さまのニーズにこたえるためにも、実装が固まっているものに対して意識することなく使っていただきたい。そこを重視して自動で切り替わる仕組みを採用しています。そしてできるだけ多くの端末で利用できるように、端末の癖も一部吸収しながら動作するように試行錯誤して自律の仕組みを実現しました。

高野:さまざまな要件に対して幅広く対応できるような仕様を意識したということでしょうか?

小山さん:はい、キャリアの障害がきっかけで困ったお客さまも多数いらっしゃったでしょうし、次の開発でどうにか対策をしたいと思いつつ、既存システムの改修の難しさに直面されているお客さまも多いだろうと考えました。冗長化をしたくても簡単ではない、SIMスロットが1つしかないデバイスを使っているケースもあります。そういうお客さまにとって "1つのSIMスロットに挿せば、メインは信頼性の高いフルMVNO回線によるドコモ網接続を使っていただいて、何かあったらサブ回線へ自動的に切り替わり、通信の継続性を確保できる"というサービスはきっと要望に応えられるだろうと考えました。

また、動作を担保する、というところにも重きを置きました。 このサービスは冗長性を担保するために通信をし続けることが重要です。さらにその上で動作するアプリが動き続けることは、お客さまから絶対に求められているポイントだし、我々もそこを怠ってはいけないと考えていました。いろんな端末でそれぞれ端末の癖があったり用途が違ったり、そういった端末の差分を吸収できる仕様にするところは苦労しました。通信不良にもさまざまなパターンがあったりして、通信ができないっていうところにもいろんなレイヤーでできなくなる部分があるので、そのどのレイヤーで通信ができなくなったとしても対処しちゃんと動き続けるような、仕様の策定にはかなり注力しました。
あらゆるパターンをさまざまなデバイスで検証することを繰り返し、動かなくなるパターンを洗い出してひとつひとつ対処するという地道な作業を繰り返して、どんな状況でも動き続けるようなアプレットに仕上げるというところに注力しました。

高野:結構骨が折れそうな工程ですね!

永作さん:IoT機器における長期間の利用において、途中でアプレットによる疎通確認サイクルが止まってしまうことのないよう、処理シーケンス(順序)を徹底的に議論・検証して安定動作を追求しました。

マルチアクセス特許取得までの長い道のり

高野:マルチアクセスSIMは特許4を取得されていますが、取得に至った経緯を教えていただけますか?

永作さん: 独自のサービス提供によって付加価値を高めることを目的に特許出願を進めました。

高野:どの部分で特許を取ることが出来ましたか?

小山さん:切り替わる技術は一般的にあるものですが、マルチアクセスSIMはお客さまのニーズを考慮した設計となっています。それを実現できたところが評価され、特許が取れたポイントになったところです。メイン回線としては通信が安定していて経済的なローカル回線を使っていただきたいという思いがあります。故障が発生した時に通信を継続させるために一時的にローミング通信のサブ回線に切り替わるんだけれども、復旧したら自動的にメイン回線に戻ってくることでお客さまにとっての安定性・経済性を実現できる、お客さまに寄り添った設計を入れている点がポイントでした。

高野:取得まで大変でしたか?

永作さん:特許権の取得に至るまでは、複数回の拒絶理由通知に対してそれぞれ対応策を検討し、手続補正書を提出することとなり、道のりは長かったです。

高野:先ほど拒絶理由通知書の文書の文言を見せていただきましたが、私だと心が折れてしまうと思うので、もうやり切ったことがすごいなあと思いました!

開発は苦労の連続、その先に待っていた達成感

高野:開発において苦労した点はどんなところでしたか?

春原さん:通信障害が実際に起きたらどうなるのか、想像力を働かせて考えました。
例えば障害時に大量のSIMが切替わるとどうなるか?SIMからの接続要求が設備へ集中することになるんですよね。そういうことに対するケアも必要じゃないかと。ほかのモバイルを担当しているクラウド&ネットワークサービス部、開発を担当しているイノベーションセンター、Transatelのメンバーとも議論しました。
結果として、何かあった時に大量のSIMが同じ時間帯で一斉に接続要求を出さないように、アプレットの中でちょっと時間差で接続するような設定をしました。 自ずと再接続をばらけさせるような仕組みが設けられている、そんなイメージです。

高野:サービスリリース前に無償トライアル提供を実施されたとのことですが、トライアルの結果はいかがでしたか?

小山さん:トライアルを実施して大きく改善した点は2点あります。
1つは切り替わりにかかる待ち時間が少し長い点で、私たちの試験結果でも認識し始めていましたし、お客さまからフィードバックでもいただくことが多かった。先ほど一斉に切り替わらないように時間差で接続する制御をしたと話しましたが、そこが接続時間が長くなる一因でもありました。その制御の仕組みを再度見直すことで切り替え時間を短縮し、お客さまの操作性の向上につなげることができました。
もう1つは経済的な点で、社内で考えていた価格設定とお客さまがこのサービスにどのくらい支払えるかという価格感について、トライアルを通して大きなずれのないことが確認でき、今後の販売にも自信が持てました。
お客さまのニーズに寄り添って開発をしてきて、お客さまの課題を解決し、経済的にもミートするサービスを開発できたという実感があり、このサービスを活用していただくことでIoTを、日本社会をよくしていくということにつながったかなと考えています。

高野:プロジェクトの中で、一番やりがいを感じた時はいつでしたか?

小山さん:お客さまに価値を実感いただいて購入いただけた時ですね。A社では、お客さまによる導入検討時の動作確認を通じて、自動で切り替わる仕様がユースケースとマッチしました。お客さまに、課題解決のお役に立てると判断いただけたことが非常にうれしいし、やりがいを感じました。

永作さん:本当に実現できるかどうか、サービス化できるのか分からないという状況で、リスクある中でも諦めずにチャレンジを続けて、結果的にサービスという形にできた。業界的にも前例がない独自サービスとしてリリースできたことは、関係者全員が達成感を感じている点だと思います。
不安を感じながらも信じてやり続けることで開発を成功させられるということを周囲にも知ってもらうことができ、自分も挑戦しようという気持ちを与えられたのではないかと思っています。

まとめと次回予告

「お客さまの課題解決を実現できるサービスを提供したい」という熱い思いがひしひしと伝わり、筆者自身もお話を聞きながら胸が熱くなる素晴らしいインタビューでした!第3回はマルチアクセスSIMの今後の開発の展望や活用事例などについてお届けする予定です。ぜひ次回の記事も併せてお読みいただけたら幸いです!

今回ご紹介したマルチアクセスSIMの詳細情報についてはこちらをご参照ください。

マルチアクセスSIMのオフィシャルサイト
Active Multi-access SIM|ドコモビジネス|NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま

また、本サービスは1枚からWeb購入・検証可能です。まずは試してみたいという方はぜひ以下のページからお申込みください!

ドコモビジネスオンラインショップ
IoT Connect Mobile® Type S|ドコモビジネスオンラインショップ|NTTコミュニケーションズ

記事に関するお問い合わせは、
iot-connect@ntt.com までメールでご連絡ください。
※お手数ですが、@を半角文字に置き換えてください


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