変わりゆくモバイル市場とActive Multi-access SIMの未来 [Active Multi-access SIM開発シリーズ 第3回(全3回)]

こんにちは。5G&IoTサービス部の池です。IoT向けコネクティビティサービスの販売企画を担当しています。
これまで、「Active Multi-access SIM開発シリーズ」として、2回にわたりその特長や仕組み、開発秘話などをご紹介してきました。最終回となる今回は、モバイル回線に求められていることの変化、そしてActive Multi-access SIM(※)(以下、マルチアクセスSIM)の技術がこれからどのように進化していくのかについてお届けします。

これまでの記事はこちら
第1回:1枚のSIMでキャリアを冗長化!Active Multi-access SIMの特長と仕組み
第2回:開発の舞台裏〜Active Multi-access SIMが生まれるまでの挑戦と特許取得

※ Active Multi-access SIM:SIM1枚でキャリアの冗長化が実現できるIoT向けモバイルサービス。通信の監視と通信障害を検知してキャリアを切り替える機能がSIM自体に実装されています。

市場の動向とお客さまのニーズの変化

近年、企業や店舗、工場などの通信環境において、モバイル回線の活用が拡大しています。 新しい拠点の立ち上げや、システムの更改をきっかけに、光回線を引かずに無線通信を採用するケースが増えているようです。
例えば、小売店では、これまで光回線を利用してマルチコピー機やATMなどのシステムを運用するのが一般的でした。 しかし最近では、店舗のレイアウトなどの設置環境に左右されにくく、導入しやすいことから、モバイル回線を活用する動きが広がっています。
デジタルサイネージ(電子看板)も、その流れの1つです。ディスプレイを使って広告や店舗情報、キャンペーンなどを表示するデジタルサイネージは、小売店や商業施設での情報発信に欠かせない存在となっています。 もともとは光回線を前提としたものも多かったのですが、最近では通信料金がサービス料に含まれているモバイル回線対応型が増え、光回線を引く必要がない点が評価されています。これにより、工事の手間や高額な工事費が不要になるだけでなく、設置場所の自由度も高まりました
最近では、そもそもモバイル回線を前提とした施設も増えているようです。 たくさんの店舗がそれぞれ有線で回線を準備しようとすると、配線が複雑になってしまい、管理が大変になります。そのため、施設全体でモバイル回線を活用することで、通信環境の整備や増設をスムーズにしようという流れがあるのかもしれません。
また、キャッシュレス決済の普及も進み、クレジットカードに加えて、2次元バーコード決済などの対応も求められるようになり、決済端末の世代交代が進んでいます。これに伴い、タブレット型のレジを導入する店舗も増え、モバイル回線を使って決済できる環境が整ってきました。
とはいえ、通信が途絶えてしまうと決済ができなくなるという課題もあります。 モバイル回線では SIM を用いてキャリアとの通信をしていますが、過去にキャリアの通信障害が発生した際には決済ができなくなり、大きな影響を受けた店舗もありました。最近では、現金を持ち歩かない人が増え、店舗側も(徐々にですが)キャッシュレス決済のみを採用するケースがあるため、「通信が常に使える状態であること」は、ますます重要になっています。

マルチアクセスSIMの今後の展望

1枚のSIMでキャリアを冗長化!Active Multi-access SIMの特長と仕組み [Active Multi-access SIM開発シリーズ 第1回(全3回)] 」でも述べましたが、マルチアクセスSIM の以下の特徴により上記のようなキャリアの通信障害にも対応できます。

  1. 1枚のSIMで2つのキャリアに接続可能
  2. SIMの機能により自動でキャリアの切り替えが可能

IoTソリューションでは、離れた場所にあるデバイスから一定の間隔でデータをアップロードしたいというニーズも多くあります。そのため、万が一通信障害が発生して長時間に及んだ場合でも、現地での操作なしにキャリアを切り替えられる機能が求められています。マルチアクセスSIMは、ファームウェアの改修などを行わなくても汎用端末で対応できる点が評価されており、こうした課題の解決に貢献しています。

また、キャリア障害時の切り替えだけでなく、ローカル5G網と公衆モバイル網を自動で切り替えたいというご要望に応えるため検証を進めています。お客さまのネットワーク環境に応じて適切なモバイル網を選択できることで、より利便性の高い通信環境を構築できます。さらに、ローカル5G網とのマルチアクセスは、将来的に「IoT向けモバイルデータ通信サービス『IoT Connect Mobile Type S』」のオプションメニュー化し、商用提供することを検討しています。これにより、IoTデバイスの通信の柔軟性がさらに向上し、多様な環境での活用が期待されます。
本技術に関しては、こちらの記事「ローカル5G網と公衆モバイル網への接続を切り替え可能なSIMアプレットの開発」もぜひご参照ください。

ユースケース1:鉄道や自動車、バスなど、免許交付がされているローカル5Gエリアと公衆モバイルエリア間を移動する際、人手による操作を介することなくアクセスネットワークを自動で切り替えて通信を継続させる

ユースケース2:ローカル5Gシステム障害のバックアップ回線として公衆モバイル網に自動で切り替えることで、冗長化による高可用性を維持させる

加えて、マルチアクセスSIMでは、サービス開発中から多くの問い合わせが寄せられていた閉域接続への対応も進めています。
特に、機密性の高い業務を扱う業種では、クラウド環境へのデータ保管や通信に対して慎重な姿勢を取る企業も少なくありません。製造業はその一例であり、製品設計や製造工程などに関わる独自ノウハウの流出リスクなどを警戒して、従来からニーズがある、インターネットを経由しないセキュアな通信環境 = 閉域網を活用しているケースも多く見られます。
また、IoTの特徴として、導入するデバイスの数や種類が多いという点が挙げられます。さらに、IoTデバイスは、低コスト・小型・軽量化が求められるため、セキュリティ機能を十分に搭載しにくい場合があります。そのため、デバイス側だけに依存せず、ネットワーク側でもセキュリティ対策を講じることが重要であり、その手段のひとつとして閉域網の活用が有効です。
昨今では、導入目的や活用範囲そのものが複雑化しているため、それぞれのセキュリティ要件や通信特性に応じたネットワークの対応が求められています。
こうした背景から、マルチアクセスSIMでも閉域接続へ対応することにより、よりセキュアな通信環境と、キャリア障害時の自動切り替えによる高可用性の両立が可能となります。
IoTでは、デバイスが遠隔地や人の手が届きにくい場所に設置されるケースも多く、万一通信障害が発生した際に、すぐに技術者が現地対応することが難しいという運用上の課題もあります。そのため、現地に人が行かなくても自律的に回線を切り替えられる仕組みが求められており、マルチアクセスSIMはこうした要望に応える機能を備えています。

マルチアクセスSIMは、商用サービスの提供開始以降、多くの引き合いをいただいており、フィールドテストなどのご支援をさせていただいています。その中で、一部のOSを搭載した端末においては、やや複雑な端末設定が必要となる場合があることも明らかとなり、ひとつひとつ解決を図ってきました。
こうして蓄積されたナレッジをお客さまに還元していくことで、今後ますます多くのIoTの冗長性の課題にお応えし、お客さまのビジネスの発展やDX推進に貢献できるよう、引き続き取り組んでまいります。

まとめ

これまで3回にわたり、マルチアクセスSIMの技術と開発の裏側、そして市場の変化や今後の展望についてお伝えしてきました。
モバイル回線の活用が拡大する中で、通信の可用性はもちろん、柔軟性や導入のしやすさなど、多くのことが求められています。マルチアクセスSIMは、キャリアの冗長化を手軽・簡単に実現するコネクティビティサービスとして注目されています。
これからもお客さまのニーズに応え、より利便性が高く、魅力的な特長を持ったサービスを提供できるよう取り組んでまいります。
今後もNTTコミュニケーションズが提供するサービスにご期待ください!

今回ご紹介したマルチアクセスSIMの詳細情報についてはこちらをご参照ください。

マルチアクセスSIMのオフィシャルサイト
Active Multi-access SIM|ドコモビジネス|NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま

また、本サービスは1枚からWeb購入・検証可能です。まずは試してみたいという方はぜひ以下のページからお申込みください!

ドコモビジネスオンラインショップ
IoT Connect Mobile® Type S|ドコモビジネスオンラインショップ|NTTコミュニケーションズ

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