はじめに
こんにちは、イノベーションセンターの村田です。 NTTドコモビジネス株式会社は、日本最大級のネットワーク展示会である 「Interop Tokyo 2025(会場:幕張メッセ、会期:2025年6月11日〜13日)」 において構築される ShowNet に対し、全国の放送局からの映像を伝送するネットワークの一部をコントリビューションしました。
本記事では、映像伝送を実現したアーキテクチャ、およびその過程で得られた知見・ノウハウをお伝えします。
背景
Interop の準備から本番までは、次の3期間に分かれて進行します。 全国の放送局からの映像を伝送するネットワークについても、それぞれの期間に応じた検証・運用が行われました。
Pre-HotStage 期間(2025年5月12日〜29日)
- ShowNet を構築する前段階として、放送局の端末と渋谷の映像機器を接続し、映像伝送の可否確認やパフォーマンステストを実施。
HotStage 期間(2025年5月30日〜6月6日)
- ShowNet をゼロから構築・検証する期間であり、放送局の端末と幕張の映像機器を接続して、同様の映像伝送検証とパフォーマンステストを実施。
会期(2025年6月11日〜13日)
- 来場者へ ShowNet の披露が行われる中、放送局から幕張会場までの映像伝送を運用。
私たちがコントリビューションしたのは、上図のネットワークの赤い箇所となります。
全国の放送局から ShowNet までの映像伝送を安全に実施するため、ネットワークにはセキュア(閉域)かつ高信頼であることが求められました。 映像伝送を実現するために、以下のサービスを活用しました。
- アクセスプレミアム フレキシブルモバイルアクセス(FMA)(以下、FMA)
- 放送局のモバイルネットワークに対し、交換機と仮想ゲートウェイを提供
- Flexible InterConnect(以下、FIC)
- AWS や ShowNet 、FMA の仮想ゲートウェイに対し、閉域ネットワークを提供
- Amazon Web Services (以下、AWS)
- Pre-HotStage 期間に、放送局端末と渋谷の映像機器をつなぐ模倣環境として活用
- IOWN Open APN
- FIC から ShowNet までを、フォトニクスネットワーキングのオープンアーキテクチャで接続
アーキテクチャ紹介
私たちがコントリビューションしたアーキテクチャはこちらです。
- FIC-Router
- 各放送局とバックアップ回線を AWS へ接続する仮想ルーター
- FIC-Port
- ShowNet からの物理回線を終端して FIC-Router へ接続するリソース
- AWS Direct Connect ゲートウェイ(以下、DXGW)
- FIC-Router と AWS を接続
- AWS Site-to-Site VPN
- AWS と Pre-HotStage 拠点を接続
- AWS Transit Gateway(以下、TRGW)
- 上記の AWS リソースを集約接続するルーター
放送局 3 局とバックアップ回線の計 4 本の接続に対し、FIC-Router ごとに個別の DXGW と異なる AS 番号を割り当て、経路を分離しました。 FIC-Router と各 DXGW、DXGW と TRGW、TRGW と Site-to-Site VPN はそれぞれ BGP により相互接続され、会期中はトラブル無く映像伝送を実現できました。 映像伝送するメインのネットワークは上図の通りですが、HotStage 期間中も Pre-HotStage 期間で作成した AWS への接続を維持し、接続検証やパフォーマンス評価として効果的に活用できました。
知見・ノウハウ
今回のコントリビューションを通じて得られた知見・ノウハウを2つ紹介します。
1つめは、FIC のモニタリング機能を活用したトラブルシュートの効率化です。
FIC は各 BGP コネクションの接続状況や受信経路をグラフィカルに表示します。 例えば、BGP コネクションが成立すると緑、不成立なら赤を示します。
HotStage 期間中、FIC-Router と ShowNet 間で 4 つの BGP コネクションを順に確立し ping 確認したところ、4 つめだけ疎通できない事象が発生しました。 ShowNet 側のルーターから FIC-Router の詳細状況を確認できず、原因特定が難しい状況でした。 しかし、FIC のモニタリング画面で 1 つの BGP コネクションが赤く表示されており、疎通不可原因がコネクション不成立によるものと特定できました。
これにより迅速な復旧が可能となり、現場対応の効率化につながりました。
2つめは、柔軟な検証・トラブル対応を可能にするネットワーク設計です。
Pre-HotStage 期間中の検証や接続確認の過程で、パフォーマンス測定やトラブルシューティング用の仮想マシンが必要になりました。 TRGW をハブとする構成にしていたため、必要な仮想マシンをすぐに各ネットワークと接続でき、突発的なニーズにも柔軟に対応できました。
実際に用意した仮想マシンは、検証用途だけでなく本番中の状況確認にも活用され、安定運用を支える重要な要素となりました。
まとめ
本記事では、全国の放送局からの映像を ShowNet へ伝送するネットワークのアーキテクチャと、そこで得た知見・ノウハウを紹介しました。
今後もネットワークとクラウドの連携検証をさらに進め、得られた知見をもとに、柔軟で高信頼なネットワーク構成の展開に取り組んでまいります。