OpenROADMに準拠した光伝送網の概要・構築編― APNテストベッドで探る技術と運用手法(その2)

イノベーションセンターIOWN推進室の鈴木と千葉です。普段は全社検証網の技術検証、構築、運用を担当しています。

前回オープントランスポンダーの世界 ― APNテストベッドで探る技術と運用手法(その1)にて、クライアント信号を光波長信号に変換する「オープントランスポンダー」を取り上げました。 今回はその続編として光ネットワークにおいて波長信号の多重化・分波、スイッチング、および光信号の増幅・パワー調整を一手に担うROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)の物理構築について実務的な設計ポイントや構築の勘所を紹介します。

OpenROADMアーキテクチャーの概要

光伝送網では長らく、単一ベンダーが提供する垂直統合型(monolithic)の装置でネットワークを構築するのが一般的でした。 これに対しOpenROADMでは、装置の機能を独立した機能ブロック毎に分離して構成するいわゆる分離化(Disaggregation)の考え方が採用されています。 これら分離されたコンポーネント間を相互接続するための共通仕様として策定されたのが OpenROADM MSA (Multi-Source Agreement) です。

従来型とOpenROADMの比較

比較項目 従来型(Open化前) OpenROADM(分離構成)
アーキテクチャー 垂直統合型(monolithic)
1つの大型シャーシに全機能が収容される
分離型(Disaggregation)
DegreeやSRG(Shared Risk Group)などの機能単位で筐体が分離可能(※各用語の詳細は後述)
ベンダー選定 ベンダーロックイン
トランスポンダーからラインシステムまで同一ベンダーに依存
マルチベンダー対応
共通仕様(MSA)により、異なるベンダー機器間の接続条件が定義されている
拡張の柔軟性 シャーシ単位の拡張
将来を見越して大型の筐体を初期導入する必要がある
機能単位の拡張
必要な方路(光信号の接続方向)やポートだけを筐体単位で後付けする「スモールスタート」が可能
物理配線管理 固定配線
バックプレーン接続、またはベンダー指定にもとづくポート間の渡り配線
設計・運用者による管理
機能間のフルメッシュ配線など、外部での配線設計が必要
物理インターフェース ベンダー独自仕様
内部接続は基板(バックプレーン)や独自配線を利用
標準化された仕様(MSA)
光パワーや波長特性が規定され、外部接続による相互接続を想定した設計

拡張の柔軟性向上

分離型(Disaggregation)構成の大きな利点は、機能単位での「スモールスタート」と「柔軟な拡張」にあります。

従来の一体型装置では、将来の需要を見越してあらかじめ大規模なシャーシを導入しておく必要がありました。 OpenROADMでは、需要に応じて後から必要な機能ブロックだけを筐体単位で追加していく構成を取りやすくなっています。

マルチベンダー対応(とその実運用)

OpenROADM MSAでは、装置間の物理的な接続条件(コネクタ形状、波長、光パワーレベルなど)を規定することで、相互接続に必要な前提条件を明確化しています。

ただし実際の運用を考慮すると、光信号の物理特性(パワー調整やノイズ管理)を厳密に制御する必要がある「光ラインシステム」については、同一ベンダーの機器で構成するのが現実的です。その上で、そこに接続する「トランスポンダー」を柔軟に選択していく構成が、有効な運用方法の1つと考えています。

IPルーター(DDC)とOpenROADMにおける分離の違い

分離(disaggregation)という言葉は、近年IPの分野でも装置構成の在り方を見直す文脈で使われるようになりました。 一体だった装置を分けて構成の自由度を高めるという考え方は共通しています。 一方で、IPルーター領域で用いられる DDC(Distributed Disaggregated Chassis)と、光伝送網における OpenROADM では、分離の対象や目的が必ずしも同じではありません。

  • DDCの分離:筐体を分けるが、論理的には一台として扱う

    DDC(Distributed Disaggregated Chassis)は、IPルーターにおいてシャーシ構造を分散化する設計アプローチを指します。 従来の垂直統合型(monolithic)シャーシ筐体を、標準的なシリコンを用いたホワイトボックス型のビルディングブロック (ラインカード筐体やファブリック筐体など)に分け、外部接続によって分散構成とします。 このように物理的な構成は分かれますが、NOS(Network Operating System)によって全体が統合的に制御され、論理的・運用的には単一のルーターとして扱われます。

    この分離は、トラフィック増大に伴う実装密度や筐体規模の制約といった課題への対応を背景としたものです。 運用の観点では、分離後も「一台の装置」としての一貫した動作や振る舞いを前提とする点が重視されます。

  • OpenROADMの分離:機能とインターフェースの境界を分ける

    ハードウェアの共通化ではなく「機能分離(Functional Disaggregation)」を採用しています。 伝送網を「ROADM」「トランスポンダー」「プラガブル光学モジュール」という3つの機能ブロックに分割し、それぞれの境界における物理仕様と制御API(YANGモデル)を標準化します。 ここでの「オープン化」の目的は、垂直統合型システムによる特定ベンダーへのロックインを回避し、マルチベンダー環境で機器同士をつなぐための条件を、装置の境界ごとに明確に定義することにあります。

    項目 IPルーター(DDC) OpenROADM
    主眼 スケール課題への対応 ベンダーロックイン回避と相互接続性
    分離対象 物理構造(筐体・モジュール) 機能ブロックとその境界
    見え方 単一の論理ネットワーク装置 機能単位の装置群の集合

DDCでは分離後も「一台の装置」としての動作が運用の中心となります。 一方、OpenROADMでは機能境界を標準化したことで光パワー、損失、OSNRといった物理パラメータ(境界条件)を管理し伝送性能をエンドツーエンドで担保することが運用上の中心になります。

以上を踏まえ、以降ではOpenROADMノードの物理構成を見ていきます。

ROADMノードの物理構成

本稿では、SDNコントローラーから1つの管理対象として扱われる装置単位、すなわちROADMなどの機能ブロックを「ノード」として捉えます。 そのうえで運用や制御の視点から、外部から見える機能(抽象化モデル)とその内部を構成する要素(回路パック)に分けて物理構成を整理します。

抽象化モデル(Abstractions)

抽象化モデルは、ROADMノードをSDNコントローラーから1つの管理対象として扱うために、ノード外部から見える機能単位を整理したものです。

Degree(方向/方路)

ノードの方路を定義し、他のROADMノードと接続する光ファイバー入出力の窓口になります。 入力されたWDM信号をSRGへ落とすか、別方路へ通過させるかを振り分けます。 この通過動作は、実装や資料によってExpressやPass-throughと呼ばれることがあります。

  • 設計のポイント
    • 接続点の挿入損失は、パワーバジェットや通信品質に影響します。
    • コネクタの清掃状態や曲げ半径、ラック内の配線状態によって品質に差が生じます。
    • これらの状態を一定に保つことで、トラブルの低減が期待できます。

SRG(Shared Risk Group:共用リスクグループ)

SRGはROADMにおけるAdd/Drop機能を担い、外部のトランスポンダーと接続します。 トランスポンダーからの単一波長信号をDegree側へ渡して伝送系に載せるとともに、Degree側から取り出した特定波長をトランスポンダーへ引き渡します。

  • 設計のポイント
    • 将来のAdd/Drop増加を見越し、ラックスペースや配線ルートをあらかじめ確保しておくことで、運用時の負荷を抑えられます。
    • SRGの実装形態は製品によって異なり、独立した筐体として配置される場合と、Degree筐体上の拡張として実装される場合があります。前者は将来的な増設に柔軟に対応できる拡張性を備える一方、構成が複雑化しやすく、配線量も増える傾向にあります。後者は配線の簡素化が容易な反面、初期設計の段階で将来的な拡張上限を見極めておく必要があります。

回路パック(Circuit-Pack)

DegreeやSRGの内部には光信号を処理するための回路パックが実装されます。 名称や構成はベンダーや機種によって異なりますが、ここでは実機で登場頻度の高い要素を役割ベースで整理します。

WSS(Wavelength Selective Switch:波長選択スイッチ)

入力されたWDM信号から任意波長を選び、任意ポートへ切り替えます。 ソフトウェア制御で動作します。

  • 設計のポイント
    • 挿入損失やフィルタ特性は、WSSの多段通過によって累積しやすく、パワーバジェットや有効帯域に影響します。方路構成や通過段数を踏まえ、必要な帯域幅やパワーマージンを見込んだ設計が重要です。
    • 切替時間はWSS単体の性能だけでなく、制御系によるパワー調整や実装方式の影響も受けます。特に開通・切替時の過渡的なパワー変動を考慮し、制御方式や装置要件を含めたシステム全体での挙動を意識する必要があります。

AMP(Amplifier:増幅器) ROADM内部の増幅器は、主にDegreeの入出力段やノード内部に配置され、伝送路や装置内の損失を補償して信号強度を維持します。 一方、ネットワーク上で独立して設置される中継用の増幅器は、ILA(In-Line Amplifier)機能ブロックとして表現されます。 ROADM内部に実装される場合は回路パックとして扱われることがあります。

  • 設計のポイント
    • 高出力を扱うため、端面の汚れは焼損リスクを高める要因となります。
    • ALS(Automatic Laser Shutdown)や APR(Automatic Power Reduction)などの安全機能が備わっている場合でも、ファイバー抜去時の動作を事前に確認しておくことが重要です。これらの機能がない構成では、より慎重な作業手順や事前確認が求められます。

OCM(Optical Channel Monitor:光チャネルモニター)

波長単位で光パワーを計測する監視要素で、DegreeやSRGの要所に配置されます。 計測値は状態把握や光レベル調整の判断材料として利用されます。

  • 設計のポイント
    • 障害切り分けの際に、特定波長の変動傾向を把握しやすくなります。
    • 制御に用いる場合は、測定精度や測定位置などの前提条件をあらかじめ把握しておく必要があります。

VOA(Variable Optical Attenuator:可変光アッテネーター)

多重された各波長(チャネル)間の受光レベル差を平準化するために光を減衰させます。 WSSが兼ねる場合も、独立部品として実装される場合もあります。

物理ポートと配線設計

OpenROADM MSAにおける「Open Interface」はノード外部と相互接続する物理ポートです。 ここでは、実機で結線対象になりやすいW、Wr、MW、OSCを取り上げます。

なお、ルーター等のクライアント装置とトランスポンダーを結ぶサービス側の配線も現場では重要ですが本記事ではOpenROADMノード側の配線(W/Wr/MW/OSC)に絞って整理します。 またILAを含めて扱う場合はMWiが別に定義されますが、ここでは範囲外とします。

インターフェース種別 名称 接続元 接続先・役割
単一波長(ライン) W(Wavelength) トランスポンダー ROADMのWrへ接続する単一波長インターフェース
Add/Drop Wr(Wavelength ROADM) ROADM(SRG) トランスポンダーのWが接続される単一波長Add/Drop
多重波長(Degree間) MW(Multi-Wavelength) ROADM(Degree) ノード間を接続する多重波長インターフェース
監視 OSC(Optical Supervisory Channel) ROADM(Degree) 監視制御チャネル。MWの一部として規定されている

補足:Degree–SRG間の配線はOpen Interfaceではどう見えるか

Open Interfaceの一覧を見ると、「DegreeとSRGの間の配線はどのポートに該当するのか」という疑問を持つことがあります。 Degree–SRG間の結線は同一ノード内部の接続として扱われるのが一般的です。

筐体が分離されていて外部パッチを介する場合でも、MSAが規定するノード外部インターフェースとは区別される、実装依存の領域となります。 一方で Device Model では、Degree側が持つ接続終端点であるCTP(Connection Termination Point)と、SRGを構成する送受それぞれの接続点であるCP(Connection Point)を対応付けることで、ノード内結線も含めて扱えるようにしています。

  • 設計のポイント
    • XCなどのラベル(装置前面に表示されるポート名)はベンダー依存であり、MSAではフロントパネルの表記までは規定されていません。
    • 実機設計では、ベンダードキュメントを基に物理ポートと論理モデル上の対応関係を明確にしておくことで、誤配線や手戻りの防止につながります。

コントローラーと管理ネットワークの位置づけ

分散した機能ブロックを1つのシステムとして統合・管理するのがコントローラーです。 物理面では、各機能ブロックはDCN(Data Communication Network)を介してサイト毎に設置されるコントローラーへ接続されます。 多くの実装では各筐体へ管理用IPアドレスが割り当てられるため、光配線に加えてDCN用のEthernet配線も設計要件として確保しておく必要があります。 分離型/統合型を問わず、ノード内の要素を束ねて上位コントローラーとの窓口になるという役割は共通です。

なお、コントローラーが装置内部の情報をどのように扱うかは論理構成の話題になるため、本記事では物理的な接続関係の整理に留めます。

  • 設計のポイント
    • DCN配線は、製品や構成によって装置間を数珠つなぎ(デイジーチェーン)で接続する前提となる場合があります。この場合、ラック間をまたぐ配線が増えやすく、作業性や保守性の低下を招きがちです。
    • APNテストベッドでは、DCNを収容するマネジメントスイッチをラック単位で設置し、各筐体の管理ポートを一度集約する構成とすることで、ラック間配線の整理をしました。
    • マネジメントスイッチを導入する際は、DCN上を流れる通信内容(VLANタグの有無など)を把握し、必要な通信を阻害しないようなスイッチ設定が重要です。

以上を踏まえ、以降ではAPNテストベッドでOpenROADMを運用する中で得られた、物理構築上の工夫を紹介します。

【実践編】APNテストベッドにおける物理構築の「勘所」

分離型構成は、拡張性や柔軟性に優れる一方で、従来は筐体内部に隠蔽されていた「装置構造(ファブリック)」が、外部の光ファイバー配線として露出してしまいます。 本来メーカーの工場内で担保されていた接続品質やケーブリングの管理が、構築・運用者の設計領域となります。

ここからは、私たちがAPNテストベッドの運用を実施している具体的な工夫を紹介します。

フルメッシュ配線による物理的輻輳の課題

分離型のROADMノードでは、流入した信号を任意の方路へ出力する「波長ルーティング」の自由度を確保するため、各Degree間を網羅的に結ぶ「フルメッシュ配線」が必要です。 方路数が増えるにつれ、必要なファイバー本数は二次関数的に増大し、ラック内での物理的な輻輳や作業ミスを招く要因となります。

配線ルールによるオペレーションの標準化

ヒューマンエラーを防ぐため、「対向装置の番号と自装置のポート番号を一致させる」という結線ルールを策定しました。 例えば、Degree-1からDegree-3へ接続する場合、Degree-1側のポートは必ず「3番」を使用します。 これにより直感的な作業が可能になり、誤接続のリスクを低減させています。

物理層を支える「光シャッフルボックス」の導入

上記の配線ルールを物理的に補完するために導入したのが、専用の「光シャッフルボックス(パッチパネル)」です。 これは、Degree間の複雑な相互接続(シャッフル配線)をあらかじめ内部で固定化した専用の接続デバイスです。

  • 配線構造の固定化
    • Degree間の複雑な相互接続をボックス内部に閉じ込めることで、ラック内の配線を整理し、視認性を向上させます。
  • 標準化された作業
    • 「Degree1の特定ポートはシャッフルボックスの1番へ繋ぐ」といった定型業務に置き換えることで、作業品質の均一化が図れます。
  • 運用の継続性
    • 構築時に将来の拡張分を含めてボックス側のポートを定義しておくことで、稼働中のサービスに影響を与えず、安全な増設を可能にします。

以下に、直接接続と光シャッフルボックス利用の比較イメージ(2ラック/6Degree構成の例)を示します。

上図の中央が現在APNテストベッドで採用している接続構成になります。

単純なケーブル総数だけを見ると「逆に配線が増えているのではないか?」と疑問に思うかもしれません。 しかし、この仕組みのメリットはラック数が増加するにつれて課題となる「ラック間配線の複雑性」を解消する点にあります。 なおラック内ケーブルにおいても、将来的にはさらなる高密度化に対応するため、MPO-LCのファンアウトケーブルを利用する構想があります。 (一部のベンダー製品では、筐体間接続のインターフェースとしてMPOポートを標準実装しているものもあります。) 以下の表は、構成規模に応じたラック間配線(またぎ配線)とケーブル総数の推移を示したものです。

構成規模 配線方式
シャッフルボックス有無
ラック内ケーブル
(ファンアウト化時)
ラック間ケーブル ケーブル総数
(ファンアウト化時)
2ラック/6 Degree なし 6 本 9 本 15 本
あり 30本(6本) 3 本(MPO) 39 本(9本)
3ラック/9 Degree なし 9 本 27 本 36 本
あ り 72 本(9本) 9 本(MPO) 90 本(18本)
4ラック/12 Degree なし 12 本 54 本 66 本
あり 132 本(12本) 18 本(MPO) 162 本(30本)

まとめ

OpenROADMによる分離化は、ベンダー選択の自由度と、必要な機能単位で拡張できる柔軟性をもたらす一方で、設計者自身が物理的な接続品質をハンドリングしなければならないという側面も併せ持っています。 今回紹介した「配線ルールの策定」や「光シャッフルボックス」のような工夫は、一見地味ではありますが、大規模な光ネットワークを安定運用させるうえで欠かせないエンジニアリングの勘所です。

物理的なインフラが整った段階で、次回はこれらのリソースを前提とし、ネットワークを論理的にどう扱うか、またソフトウェアからどのように制御・運用していくかという観点を解説します。