セキュリティカンファレンス「NCA Annual Conference 2025」に登壇してきました

こんにちは、イノベーションセンターのNetwork Analytics for Security(NA4Sec)プロジェクトの山門です。
この記事では、2025年12月18日-19日に開催されたカンファレンスNCA Annual Conference 2025へ登壇してきた模様を紹介します。

組織におけるドメイン名の「終活(廃棄)」に伴うリスクをテーマに、利用終了ドメイン名に対する2.3億件のログ分析結果を説明しました。ECS(EDNS-Client-Subnet)を用いた分析により、「利用終了後も攻撃・スキャンが絶えない」という実態や、観測行為自体が攻撃を誘発する「観察者効果」といった興味深い知見を解説します。

NCA Annual Conferenceとは

NCA Annual Conferenceは、一般社団法人 日本シーサート協議会が主催する年次カンファレンスです。

本イベントは、企業や組織内でセキュリティインシデントに対応するCSIRT(Computer Security Incident Response Team)のメンバーが一堂に会する、国内でも大規模なコミュニティイベントの1つです。最新のサイバー攻撃動向や技術情報の共有にとどまらず、組織の枠を超えたCSIRT間の連携や、各組織が抱える課題解決のヒントを得ることを目的として開催されています。

特に、現場の実務者による知見の共有やワークショップを通じた「共創」の精神が重視されており、日本のサイバーセキュリティ対応能力の底上げを図る重要な場として位置づけられています。

NA4Secプロジェクトとは

私の所属するNA4Secプロジェクトについて紹介させてください。

NA4Secプロジェクトは、「NTTはインターネットを安心・安全にする社会的責務がある」を理念として、インターネットにおける攻撃インフラの解明・撲滅を目指すプロジェクトです。

NTTドコモビジネスグループにおける脅威インテリジェンスチームとしての側面も持ち合わせており、有事において脅威インテリジェンスを提供し、意思決定を支援することもあります。

イノベーションセンターを中心として、NTTセキュリティ・ジャパンやエヌ・エフ・ラボラトリーズからもメンバーが参画し、日夜攻撃インフラ(攻撃者の管理するマルウェアやC&Cサーバなど)を追跡しています。

講演内容

NA4Secプロジェクトの神田と、私(山門)の2名で、「『君の名は』と聞く君の名は。」というタイトルで、安易なドメイン名放棄に潜むリスク、観測から得られた知見、そして新しい管理アプローチについて講演しました。 登壇資料はこちらにアップロードしておきましたので、よろしければご覧ください。

ドメイン名の「終活」という課題

企業がかつて利用していたドメイン名を悪意を持つ第三者が取得した場合、フィッシングサイトに悪用されたり、ブランドイメージを失墜させたり、Search Engine Optimization(SEO)を悪用したりできるため、攻撃者にとって価値があります。そのためドメイン名の放棄後に第三者によって悪用される「ドロップキャッチ」のリスクが存在します。実際に「ドコモ口座」など複数事例でも問題が顕在化しています。

その対策として、当社ではドメイン名の永年保有ポリシーを策定していますが、「いつまでも持ち続ける」以外の選択肢を探るべく、利用終了ドメイン名に対する「アクセス実態」の観測と分析しています。

ECSの活用

今回発表した中では、「EDNS-Client-Subnet(ECS)」の挙動を調査しました。ECSとはRFC 7871で定義されており、DNS問い合わせにクライアントのIPサブネット情報を付加し、権威DNSサーバがユーザの地理的・ネットワーク的な位置をより正確に把握できるようにする仕組みです。DNSリゾルバの裏に存在する、実際に名前解決しようとしたクライアントのサブネットを意味します。

観測・分析環境

ログ収集環境を下図に示します。

利用終了したドメイン名宛のDNSクエリログ、Webアクセスログ、受信メール・DMARCレポートの3点をAWS上で収集およびJSON化し保管しています。今回はその中のDNSクエリログとWebアクセスログの2点に注目しています。

今回は、NA4Secプロジェクトの利用終了ドメイン名関連の施策の中で、初めてDNSクエリログとWebアクセスログを突合させることでアクセスの正体と目的の分析を試みました。DNSクエリログのECSをキーにWebアクセスログの送信元IPアドレスと突合し、DNSクエリログとWebアクセスログのタイムスタンプの差に着目しました。タイムスタンプの差が小さいと、当該ECSがWebアクセスのためにDNS名前問い合わせをした可能性が高いためです。

分析結果

以下のグラフは、各日付のDNSクエリのカウントをその日調査対象になっていたドメイン名の数で平均した値の遷移です。

以下の事柄が、分析により判明しました。

  • ログ分析から、利用終了後も大量のクエリが継続している
  • 約2.3億件のDNSクエリログのうちGoogle / Cisco / Akamai など大規模DNSの resolver-ip からのクエリが9割以上を占める
  • DNSで名前問い合わせ直後(24時間以内)に Webへアクセスしてきたものを調査した結果112リクエスト中、90件以上が攻撃またはスキャンである
  • WordPress や Apache の既知脆弱性を狙ったアクセスが多数確認されました。Shellshock(CVE-2014-6271)、WebLogic RCE(CVE-2017-10271)、MobileIron RCE(CVE-2020-15505)、D-Link NAS のバックドア脆弱性(CVE-2024-3272)など、古い脆弱性も依然として集中的に狙われている

今回の分析から明らかになった問題の1つは、観測行為そのものがアクセスを誘発してしまうというジレンマです。 DNSレコードを返すことでサブドメイン探索が行われ、HTTP応答を返すことで脆弱性スキャンが始まるなど、観測行為が攻撃者を誘引し、その行動を変えてしまっている実情が見えてきました。 いわば「観察者効果」です。

その一方で、DNSクエリログ・Webアクセスログ単体だけではアクセスの目的や意図、アクセス元の素性を推し量ることは難しく、適切なアクションに結び付けることは困難です。 より正確に状況を把握し、利用終了ドメイン名に残存するリスクへ効果的に対応するためには、不要な「ノイズ」を除去して、本来残っているアクセスを見分けることが重要となります。

結論

これらの調査から得られた知見として下記のようにまとめられます。

  • DNSクエリログの一部の送信元のアクセス意図は攻撃やスキャンであることが、今回初めてDNSクエリログとWebアクセスログの2つを突合することで判明した
  • 利用終了ドメイン名であっても攻撃・スキャンは日常的に行われる(今回の調査の対象は24年8月以前に利用終了したドメイン名)
  • 2つのログ突合により、名前問い合わせをしてきた送信元のアクセス意図の理解が高まる(今回の調査では大半がスキャンや攻撃)

おわりに

月日が経ってもアクセス数は減らず、「減少=ドメイン名を安全に手放せる」の単純な判断材料にはならないことがわかりました。 また、現用ドメイン名にも同様の脅威が常に存在するため、サイバーハイジーン(基本的なサイバーセキュリティ対策を平時より実施すること)の徹底が不可欠だと言えます。

講演後の反応として、「同じくドメイン名の終活に悩みを抱えているが、運用・廃止ポリシーはまだ策定していない。今回の講演は、月日が経ってもアクセス数が減らない点や、曖昧な運用が悪意ある第三者によるドロップキャッチの原因になる点など、改めて組織内での運用ポリシーを策定するためのきっかけになった」というご意見もいただきました。

本カンファレンスを通じて、最新の技術動向や脅威情報を習得できたことはもちろんですが、同じ課題を持つ他社CSIRTとの「共創」のネットワークを再確認できたことが最大の収穫でした。一度取得したドメイン名の管理という地味ながらも避けては通れない課題が、いかに多くの実務者の皆さまの共通の悩みとなっているかを痛感しました。

「いつ、どうやってドメインを手放すべきか」という問いに対する最適解はまだありません。しかし、今回ご紹介したログ分析の手法や観測結果が、皆さまの組織における運用ポリシー策定の一助となれば幸いです。 NA4Secプロジェクトでは、今後もこうした観測と分析を継続し、インターネットをより安心・安全なものにするための知見を発信してまいります。

記事を最後までお読みいただきありがとうございました。