OTセキュリティリスク可視化サービス OsecT、リニューアルしました

はじめに

こんにちは、イノベーションセンターの黒木(GitHub:krk09)と鍔木(GitHub:takuma0121)です。 今回はOT(Operational Technology)ネットワークのセキュリティリスク可視化サービスであるOsecT(オーセクト)のリニューアル提供を開始したので、サービス運用で得られた知見をもとに、どのような機能改善をしたのか紹介します。

OsecTとは

OsecTとは工場などのOTシステムのセキュリティリスクを可視化・検知するサービスです。 多様化する工場システムのセキュリティ脅威に対して、パケット解析するセンサー機器を設置するだけで、OTシステムへの影響なく、ネットワークの可視化と脅威・脆弱性検知ができます。 早期にリスク感知できる状態を作り、工場停止による損失を未然に防ぐことができます。 詳しくは過去のブログ記事に書いているので、興味がある人はぜひ見てください。 (OsecTリリースOsecT前編OsecT後編

サービス運用から得た知見

2022年4月にサービスリリースしてから1年ほど経過して、実証実験では得られなかった知見を得ることができました。 その1つが OTネットワークがITネットワークと分離されていない環境が多くある です。この記事ではそのような環境をIT/OT非分離環境と呼びます。 このような環境でOsecTを利用すると、性能不足や過検知が課題になることがわかりました。

その他にもOsecTの利用ユーザーが増えていくにつれて、「可視化画面やアラートが見にくい」「自分で設定したい、またはしたくない」「OTプロトコルの可視化・検知を充実させてほしい」などの声もいただきました。

リニューアル提供での主な改善点

本章ではサービス運用から得られた知見をもとにした改善点を、可視化・検知機能を有するクラウド上にあるOsecTコアと、パケット解析機能を有するOsecTセンサーに分けてご紹介します。

OsecTコア

OsecTを利用できる環境を広げるためにIT/OT非分離環境への対応や、脅威検知機能の刷新やサービス名の編集をはじめとしてより使いやすく、分かりやすくするための改善を行いました。

IT/OT非分離環境への対応

これまでITネットワークとOTネットワークが分離されていない環境にOsecTを置いた場合、IT機器によるインターネットへのアクセスが含まれることによって、管理していないインターネット上のIPアドレス等もOsecT上で端末として可視化/検知されてしまうことがありました。その結果、端末(IPアドレス)数が多くなりすぎて処理に影響がでたり過検知によってアラートが大量に出てしまったりするという問題がありました。

これらの問題に対して、グローバルIPアドレスやインターネットドメインを集約する機能を追加することで、IT/OT非分離環境においてもOsecTを利用できるようにしました。 集約されたグローバルIPアドレスは以下のinternet_address(v4)などのように1つにまとめて可視化されます。

OTネットワークがITネットワークと分離された環境向けに、従来通り集約せずに可視化することもできます(システム設定からインターネットアドレス可視化の設定をONにする)。 また、一部のグローバルIPアドレスやインターネットドメインのみを集約対象から除外して可視化したい場合のための設定項目も用意しています。

IT/OT非分離環境において、誤ってグローバルIPアドレスを可視化する設定にすると、管理対象外のIPアドレス(グローバルIPアドレス)もLAN内の端末と同じように扱われ、OsecT上にサービス仕様を超えた端末(1,000端末)数が表示されることがあります。 そのような場合に、お客さまへ注意喚起して設定の見直しを促すためにメールで通知する機能も併せて追加しました。 この通知を受け取ったお客さまには、管理対象外のIPアドレスまで可視化対象になっていないかご確認、及び適切な設定をお願いできればと思います。

学習ベース脅威検知の追加

元々OsecTに備わっているホワイトリスト方式の異常検知は、自動化されたシステムのように、端末が機械的な通信を繰り返し、通信先があまり変わらないような厳格なOT環境においては有効です。しかしそうではない環境、例えば人手による端末操作などにより通信先が頻繁に変動する環境では過検知を引き起こしてしまいます。

通信先などが変動するような環境においても適用できる学習ベースの検知機能として、今回新しくIP統計検知を追加しました。 IP統計検知は、IPアドレス単位で宛先IPアドレス数や送受信パケット数などといったIP通信の傾向を表す数値を元に異常を検知する機能です。

具体的には、一定時間毎にIPアドレス単位で宛先IPアドレス数や送信/受信パケット数などの分析に使う値を算出し、信頼区間分析/主成分分析をそれぞれ行います。 信頼区間分析は、学習時に各値で99.9%信頼区間を求めて算出した閾値を元に検知します。 主成分分析では、学習時に各値をまとめた主成分分析によって得られた主成分毎の最小値/最大値を閾値として検知します。 信頼区間分析では各値を個別に分析して検知し、主成分分析では各値を相関的に分析して検知するイメージです。

端末情報表示の整理

「端末」の「IP別接続サービス」タブの名称を「詳細」に変更し、それに伴って表示する情報を拡充しました。 元々MACアドレスやベンダー名など接続サービス以外の情報も表示していたため、実態に合った名称となり、「一覧」タブに表示されているホスト名やOSなどの情報も表示されるようになりました。

また、検知アラート画面において、IPアドレスがリンクになっていたりホバーで端末の情報が表示されたりと挙動が統一されていなかったものを、ホバー表示に統一した上で表示内容を統一・整理しました。

脅威検知アラートのわかりやすさ向上

各検知アラートがどんなアラートなのか(何故発生したのか)分かりやすくするために、検知アラートの一覧ページに各アラートの概要を説明する項目を追加しました。 具体例として新規端末アラートの場合「新規端末192.168.0.xが出現」、脆弱端末アラートの場合「サポート切れOS Windows 7の端末192.168.0.xが出現」といった説明が表示されます。

ポート番号に対する名称変更機能の追加

これまではポート番号やパケットの内容から自動で判定できたプロトコルのみサービス名を表示していましたが、特定のポート番号に対してユーザーがサービス名を編集できる機能を今回追加しました。 TCP/IP上で独自プロトコルを使っている場合などに、この機能を使ってサービス名を設定することによって、自動で判定できないプロトコルでも端末一覧などの可視化のページでユーザーの設定したサービス名が表示されるようになります。

脅威検知の使い勝手向上

より簡単な操作で脅威検知機能を利用できるよう、学習期間・検知期間を細かく設定しなくても学習状況から自動的に検知へ移行する機能を追加しました。 また、どのようなOT環境でも共通的に使っていただきたいおすすめの検知種別については、事前設定不要で利用できるようなりました。

従来の機能はアドバンスモードとして残しているため、学習と検知の期間をそれぞれ設定したい場合はアドバンスモードをONにすることで従来通りの設定が可能です。

OsecTセンサー

センサーでは、IT/OT非分離環境でのトラフィック量増加に対応するための性能向上や、ニーズの多いOTプロトコル(CC-Linkファミリー)への対応を行いました。

性能向上

これまでトラフィック量が比較的少ないOTネットワークを想定していたため、tcpdumpでPcapを生成後、ZeekやSuricataなどのパケット解析ツールでログ化する処理をしていました。 しかしながら、この方式では数十Mbpsが性能の限界(サービス仕様上は10Mbps)だったため、インターフェースから直接ログ化する方式に変更しました。

従来の方式から新しい方式に変更することで、Pcapの生成→ログ化といった2段階の処理が解消されたことや、Pcapのパケット解析だとシングルコアでしか動作しなかったツールがマルチコアで動作できるようになり、数百Mbpsまでのトラフィックを処理できるようになりました(サービス仕様上は100Mbps)。

OTプロトコル(CC-Linkファミリー)への対応

今回のリリースでは、日本国内で開発され、広く普及しているOTプロトコルであるCC-Linkファミリーのプロトコルに対応しました。 市販のOTセキュリティ製品のプロトコル対応状況は、製品毎プロトコル毎に異なり、プロトコル名を表示するだけのものからペイロードにある変数を使って異常を検知するものまでありますが、OsecTではCC-Linkのコマンドレベルでの可視化・検知まで実現できるようにしました。 OTプロトコルの対応にはZeekおよびSpicyを利用しており、具体的な実装方法は【日本初紹介】Zeek・Spicyの使い方まとめを参照していただければと思います。

OTプロトコルは業界・業種・機器メーカー毎ごとに存在するため、すべてのOTプロトコルに対応することは難しいです。一方で、今回のリニューアルを通じてOTプロトコルに対応するためのフレームワークや具体的な実装方法が確立できつつあります。

今後もユーザーのニーズを汲み取って、リリースごとに優先度の高いOTプロトコルに対応していきたいと考えています。

おわりに

今回はサービス運用を通じて得られた知見をもとに、どのような機能改善をしたのかご紹介しました。 実証実験だけでは明らかにならない課題もあり、サービスリリース後も素早く課題を見つけて改善を続けていくことがより良いサービスの実現につながると感じました。

OsecTは低価格でOTネットワークの可視化や脅威検知ができるので、セキュリティ対策に手が出ていない・不十分と感じている企業さまにはぜひご利用いただきたいです。 ご興味がある企業さまは、WideAngle (OsecT) ご紹介ページからお問い合わせいただければ幸いです。

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