複雑な事業を解釈するためにチームで取り組んだこと

この記事は、 NTT Communications Advent Calendar 2023 21日目の記事です。

IOWN推進室では、NTTグループ一体となり取り組んでいるIOWN®︎ 1 構想 2 (Innovative Optical and Wireless Network)の認知度向上・案件化に向けたプロモーション戦略業務を行っています。
本記事では、IOWN構想の複雑な事業を理解する・伝えるために実践した取り組みをご紹介します。
異動や転職、新規プロジェクトの参画で事業や技術の理解・伝え方に苦戦する方の参考いただければ幸いです。なお、内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織の総意ではないことをご了承ください。

はじめに

みなさんこんにちは。イノベーションセンター IOWN推進室の塚越と申します。
NTTグループ一体となり取り組んでいるIOWN構想のプロモーション戦略業務をしています。
2022年4月にNTTコミュニケーションズに新卒入社し、デザイン部門「KOEL」でデザインリサーチャーをしておりましたが、今年の7月にIOWN推進室に移りました。
今回はイノベーションセンターのValues3の1つである 「枠」を越えように焦点を当て、6ヶ月前に異動するまで未知なる領域であった「IOWN構想」を理解し、伝えることにチャレンジした経験をお話しします。

複雑な事業をシンプルに捉えることの難しさ

私たちは「変動性が高く、未来が予測しにくい」現代に、柔軟に対応できるようIOWN構想を推進しています。しかし現代をうまく捉えられないことと同様に、私にとってIOWN構想を解釈することはとっても難しいことでした。
なぜなら、自身の知識不足や情報過多、相互に関連する多くの要因が絡み合うことで複雑化しており、IOWN構想を明確に解釈することができなかったからです。
このように、前例のない複雑な事業を解釈する際に「自分自身が理解が深められない」や「難解な説明になってしまい聞き手を戸惑わせてしまう」といった状態に陥ること、みなさんはありませんか。

私の状況

IOWN構想との出会いは、異動する1年ほど前デザイン部門で携わっていた先端技術リサーチです。そのリサーチでは、「XR が人々の生活や社会に何をもたらすのか」XR を取り巻くさまざまな事例を参考に、XR がもたらす価値について分析をしました。 その際にIOWNに対して、以下のような印象を持ちました。

  • メタバースのようなデータ量が大きいものをぬるぬる動かすことができてストレスフリーになる
  • 高度情報化が進み、SNSが当たり前に活用されることによって生まれた歪みをなくし、人それぞれの心地よさを追求できる情報社会のための基盤ができる

一方で、光電融合技術や光通信技術などIOWN構想を支える技術の理解は進んでいませんでした。

異動して苦労したIOWN構想全体像の把握

異動を機に最初に取り掛かったことは、IOWN構想の背景や技術に関する知識等全体像の理解です。それらを理解するために、IOWN構想に関するありとあらゆる文献に当たりました。しかし時間をかけてもなかなか理解が進みません。理解が進まない原因は大きく2つあると考えました。1つ目は自身の知識不足、2つ目はアクセス容易な文献の認知負荷4が高いということです。 具体例としては、専門的な用語・横文字の多用、文章が冗長、色調やレイアウトに一貫性がないといった事象が重なり、私にとって情報を処理しきれない難解な文献でした。1つ目の知識不足は、新しい領域に挑戦する時は誰しもぶつかる壁だと思いますが、2つ目の認知負荷が高いに関しては個人の問題のみならず、プロモーションを推進する上で障壁になっているのではと推測しました。

資料改善に取り組む

これらを踏まえ、お客様説明用スライド資料の改善を進めることにしました。スライド資料改善の営みは、これからIOWNに関する業務を進めていく上で必要な知識を深め、ビジュアルでわかりやすく伝えることがほんの少しだけ得意な私がすぐに貢献できる絶好の機会でした。

情報の整理・分析

既存資料の分析

まずは何がスライドを複雑にさせているのか、現在の構成を整理してみます。 整理してみるとこのような障壁がありました。

  • シーズに偏った説明になっている
  • 共感できるストーリーになっていない
  • 理解の下地となる知識や情報が不足している
  • 内容が取捨選択できておらず、70ページほどの巨大なスライドになっている
    etc...

これらの問題が聞き手が共感しにくく難しいと思ってしまう原因になっているのではないかと考えました。

お客様、営業さんの声を聞く

次にチームメンバーがスライドを使ってご提案する場に同席し、お客様や営業さんの声を聞きました。特に多くご意見をいただいたのが「利用シーンを想起しにくい」ということでした。技術的な説明の割合が多い一方、ユースケースの割合が少ない構成になっており共感や納得につながらないこと、また聞き手が求めていることを想定できていないという課題を認識しました。

資料化

分析を通して既存のスライドに不足している事柄を把握し、いざ資料化を進めていこうとすると知識不足の壁を感じ、私一人の目線や知識では限界を感じました。

そこで、IOWN推進室のメンバーに協力を仰ぐと皆さん快く引き受けてくださりました。一人ではなくチームで改善を進めていくことにしました。
一方、チームで進めていくと新たな困難に当たります。それは、それぞれ専門分野や経験してきた領域の異なるメンバー間での喧々諤々の議論が起こり、議論が思うように進まないということです。そこで、個々人がIOWN構想に対する認識や価値観・思考方法に違いがあることに気づきました。
ですが、相手の知識や専門用語を知りそれを使って理解し合うことで、新たな気づきを得て手段の選択肢の幅を広げることができるのではないかと可能性を感じました。

ブレイクスルーの方法

立場や専門性の違いを強みにする

IOWN全体で見ると情報が複雑で難しいと感じてしまいますが、各々の専門分野に関することであれば、情報が整理されていて要点が明確になっていると考えました。IOWN推進室には「光電融合の技術やデバイスの観点」「ネットワークサービスとしての観点」「コンピューティングの発展経緯としての観点」「戦略マーケティングとしての観点」「研究開発としての観点」を持つメンバーがいてそれぞれの観点からお話ししていただきました。
そして、お話を聞く中で「どういう方向性にするか」「どこを深掘りしていくか」「どこを重要視したらいいか」整理していきました。そして、議論の中で得た新しい視点と自分の専門分野の知識を重ねてIOWN構想に対する知識を深め、気づいたことをアウトプットする。この営みを何週も繰り返しました。すると、次第に情報が整理されたスライドを形作れるようになりました。

なぜその方法にたどり着いたのか?

サピア=ウォーフ仮説」と「非ゼロ和ゲーム」というキーワードからこの方法に辿り着きました。
「サピア=ウォーフ仮説」は、人は言語を通してのみ思考するのだから、異なる言語を使えば認識する世界観が変わるという考え方。一方「非ゼロ和」は、複数の人が相互に影響しあう状況の中で、ある1人の利益が必ずしも他の誰かの損失にならないこと・状況のことです。
「サピア=ウォーフ仮説」は、言語に着目していますが、同様に専門性の違いがあれば認識する世界観が変わるのではないかと考えました。
この「サピア=ウォーフ仮説」と「非ゼロ和ゲーム」という2つのキーワードから、複雑な事業を理解・伝えていくためには、専門性の違いで分断するのではなく互いの分野を絶えず行き来して相互に影響し合い、チームとして複数の視点を持つことが重要なのだと感じました。

試した結果、周囲の反応はどうだったのか?

作成したスライド資料を運用し始めると、運用前と比べて以下の変化が起きました。

  • 資料請求が増加した
  • 資料を活用した説明が容易になった
  • 社内外からわかりやすいとお声がけいただくことが増えた
  • 営業さんからの引き合いが増え、共創支援等関係性構築につながった

スライド資料が、チームを超え他部門・社外とのハブになってきていると感じています。
また、資料作成のプロセスを通じて「別の案件を一緒にやりたい」や「アドバイスが欲しい」とチームメンバーからお声がけいただくことが増えました。

まとめ

今回取り上げた資料改善の事例を通して、自分の「枠」にとどまらずチームとして複数の視点を持って新たな価値観を得ることで、理解の深化やわかりやすく伝えることにつながるというお話しをしました。 前例のない複雑な事業に必要なことは、既成概念を取り払いイノベーションを起こしていくということだと思います。自分の意思を曲げて誰かの意思に従うことなく、不協和音に立ち向かう。しかし、争うのではなく互いの視点を絶えず行き来し、妥協するのではなく相互に影響しあって組織力を向上するということは一つの解決手段ではないでしょうか。

自身の展望

私の長期的な目標は、「今は使う人を選ぶ先端技術を、誰もが使える公共性の高いサービスに活用して、世の中の当たり前にしていくこと」です。 IOWNの社会実装で貧富の差を生み出すことなく、誰もが平等に享受できるものにしていけるように、さまざまな「枠」を超え、世の中の潜在的な課題に目を向けていきたいと思います。

IOWN構想について

ところで、IOWNってなんだろう?そう思った方いらっしゃいますよね。
IOWN構想について少しだけお話しします。
IOWN構想とは、ひと言で言うと「現在のネットワークインフラでは実現できない、新たな世界・豊かな社会を実現する革新的な取り組み」です。
IOWNはその名の通り革新的な光と無線のネットワークで、光電融合技術光通信技術を用いて大容量・低遅延・低消費電力を実現する、次世代通信・コンピューティングプラットフォームです。(かなり砕けた表現をすると、「とっても早くて、一度にたくさん情報が送れるのに、かなり省エネ」なすごい技術です)
現代は市場の競争が激化し技術の進歩が早まり、ビジネスは日々変化を求められます。さらに、経済や政治の不安定さ、自然災害などのリスクも存在しています。こうした現状には、従来の思想や方法・技術だけでは対応ができなくなってしまいました。
想定外なことが起きてもしなやかに対応し豊かな社会を実現するために、NTTを中心として世界の各企業と一緒に「IOWN構想」を推進しています。5

IOWN推進室について

NTTコミュニケーションズのイノベーションセンターに属するIOWN推進室は、2023年4月にイノベーションセンターに設立されました。

IOWNの早期社会実装に向けて、以下の3つに取り組んでいます。
1. IOWNに関する技術開発・検証
2. 認知度向上・案件化に向けたプロモーション戦略の立案/実行
3. 実証実験の推進

私の所属するチームでは、認知度向上・案件化に向けたプロモーション戦略の立案/実行を担っております。 みなさんに「IOWNを使えば今抱えている課題を解決できる!」と思っていただき、IOWNで世の中を豊かにするビジネスを一緒に作り上げていきたい!その一心で活動しています。6 今年は、docomo business Forum’23 7やOPEN HUB Park 8で体験型の展示を設計し、みなさんに「IOWNが拓く未来の世界」をご体感いただきました。

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IOWN推進室では、IOWN構想の早期社会実装に向けて共に尽力するメンバーを募集しています! IOWNやIOWN推進室の取り組みにご興味持ってくださった方がいたら、ぜひ一度お話ししましょう!

最後まで、ご覧頂きありがとうございました! それでは、明日の記事もお楽しみに!


  1. 「IOWN®」は、日本電信電話株式会社の商標又は登録商標です。
  2. IOWN構想(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)とは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。
  3. イノベーションセンターのValues
  4. 認知負荷とは、読み手が情報を理解する際にかかる精神的なエネルギー量のこと
  5. 「IOWNのこと、もっと知りたいよ〜!」って思ってくださったらぜひ。OPEN HUB RADIO「IOWN特集」をお聞きください。IOWN推進室の羽石さんがIOWNについてお話ししています。
  6. その他IOWN推進室の取り組みは、こちらで紹介しています。
  7. docomo business Forum:ドコモグループの法人事業ブランド「ドコモビジネス」のもと事業を展開するNTTコミュニケーションズが、最新テクノロジーとユースケースを紹介するイベント。
  8. OPEN HUB : 社会課題を解決し、わたしたちが豊かで幸せになる未来を実現するための新たなコンセプトを創り、社会実装を目指す事業共創の場。各領域に精通した専門家であるカタリストやパートナー企業に所属する「人」とともに、多様なアイデアや最先端の「技」を組み合わせて、リアルに、時にバーチャルな「場」で思考を重ね、ビジネス課題の解決に向けた取り組みを行っている。
© NTT Communications Corporation 2014