未来の教育を作るのは誰か!?Enterprise APIs Hack-Night #6「EdTech × API」レポート

8月25日、TAM CoworkingにてEnterprise APIs Hack-Night #6が開催されました。今回のテーマはEdTech×APIで、教育分野にフォーカスして3人の方に登壇いただきました。こちらはそのレポートになります。

講演1:プログラミング教育による破壊的イノベーション

登壇者:小金井市立前原小学校 校長 松田 孝様 一言に教育といっても色々と概念があります。学校教育に注目が集まりますが、家庭教育、生涯教育、社会教育などあります。学校教育は一部に過ぎません。さらに学校教育の中でも義務教育は一部で、私学では様々な試みが行われています。だからこそ、逆に公立は手つかずのブルーオーシャンと言えるかも知れません。 幸い私が校長を務める小金井市立前原小学校では私が率先していることもあり、多くのチャレンジが行われています。今回はそんな現場の生々しいとも言える現状について紹介したいと思います。そういった内情を知らずに「イイモノ」を作っても使ってもらえませんので注意してください。 まず公立学校の現状です。教室を見ても分かる通り、そこにはICT、IoT、プログラミングなんて言葉は全く感じられません。かろうじて液晶テレビとエアコンがあるくらいです。昔と何も変わっておらず、「子供たちはランドセルを背負って過去にタイムスリップしている」なんて言われたりします。 そんな時代との乖離を教えてくれたのはタブレットです。私がいた愛和小学校の時、一人一台のタブレットを導入しました。現在、タブレットを入れているのは大阪などの方が多いが、学力調査は東北地方のが高いです。残念ながらタブレットの利用が教育水準を引き上げているという訳ではありません。 学校とは本来、最先端の技術を学ぶ場であったと考えています。今から20年後、2036年の教育現場を思い浮かべてもロボットが所狭しと動いている姿は全く思い浮かびません。学校の中と外では40年のギャップが存在するとまで言われています。それはなぜかというと、保護者の評価基準は自分たちが受けてきた教育にあるのです。「懐かしい」と言って喜ぶ姿がまさにそうです。これでは進化がないのも納得してもらえるでしょう。 ではどうしたら良いでしょうか。そのためにはまず学校と政府、自治体などの関係から見ていきたいと思います。 まず学校の設置者は誰かということです。これは3つあります。 - 国 - 地方公共団体 - 学校法人 公立学校教員を採用するのは誰でしょうか。これは都道府県です。ただし政令指定都市は別です。 次に都の教育委員会と地方の教育委員会、偉いのはどっちだと思いますか。採用、つまり人事権は都の教育委員会にあります。しかし実際の教育は地方の教育委員会が決めています。 さらに教育課程は誰が決められるか。年間の授業日数はあらかじめ決まっていますが、その内容である教育課程の編成権は学校長にあります。学校長はそういった権限を持っており、実は職員会議のようなものは開かなくても良くなっています。 他にも学校を取り巻くステークホルダーはたくさんいます。 - 教職員 - 教育委員会 - 保護者 - 子供 - 同窓会 - 地域 - 議会 これらのステークホルダーの関心事はばらばらです。校長先生が変わったことをはじめると、一定数の保護者はそれに反発するでしょう。それは議会に届きます。彼らは票が欲しいので、保護者の言うことを聞きます。そして議会は教育委員会に通達し、さらに人事権を持った議会によって校長は行動を制限されると言った具合です。そうした様々なステークホルダーによって外からの刺激が届かなくなっているのが現状でしょう。 過去において電子黒板のようなICTが導入検討された時期がありました。しかし全く使われていません。これは幾つかの理由があります。まず先生はとても忙しく、変化を好みません。また、既存教科の完結性や完成度がとても高いため、隙がありません。その結果、必要性や現状との親和性が低いために導入が進まないのが実情です。 そんな中、プログラミング教育は現状の問題を打破する最高の武器と考えています。プログラミングは子供たちにとってゲームのようなもので、楽しんで行っています。そしてプログラミング教育を通じて既存教育の問題を知っていくのが良いと考えています。 学校は勉強する場ではなく、自分で学び、仲間と学び会う場です。それがプログラミングによって実現しています。ロボットを使ったプログラミング教育によって、プログラミングが自分たちの世界を便利にしていくと言うことを実感できています。 最近、プログラミング必修化を巡る動きが幾つも行われています。有識者会議もあります。ただし時間数は各学校で決定となっており、ちょっとやって終わりと言った学校もあります。また、最近の会議では英語教育がメインになっており危惧しています。 今後、教師は単なるティーチャーからファシリテーターへと変わっていくべきだと考えています。

官民連携による「教育×クラウド」

登壇者:NTTコミュニケーションズ株式会社 第三営業本部 稲田 友様 世界のEdTechはどんどん進んでいます。数億円の資金調達であったり、買収も多数行われています。 そんな中、日本の現状はどうなっているのか紹介します。 現在、オンライン教育のプラットフォームを開発しています。その位置づけは「世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出す。バーチャルデータのプラットフォームでは出遅れた。第二のリアルデータでプラットフォームを確立する」とされています。政府も危機感を持ち始めています。世界最先端IT国家創造宣言を出し、家庭と学校がシームレスにつながる教育環境を作ろうとしています。 ではそんな中、実際の教育現場ではどうでしょうか。まず大きな試みとしてプログラミング教育があります。一人一台の環境整備が進められています。例えば柏市で29年度からプログラミング教育を行われます。 国が行っているのが先導的教育システム実証事業です。教育クラウドプラットフォームはクラウドベースで、一人一台のタブレットを導入しています。総務省と文部科学省が連携し、APIを使ったアプリ連携なども行われています。 教育クラウドプラットフォームはいつでもどこでも学べる環境、さらにマルチOSやブラウザ、200以上のコンテンツにシングルサインオンできるシステムです。日本国内だけでなく、海外の日本人学校にも提供しています。教材はHTML5で作られています。自宅に帰ってからの学習も補助でき、動画を見た上で問題を解くといったこともできます。 今の計画ではオープンアーキテクチャでモジュール化していこうとしています。そんな中ではコンテンツとユーザが肝です。つまり開発者の皆さんが頼りです。コンテンツを充実させていき、学びが続いていく環境を作っていこうと考えています。 アナログからデジタルを見直す事例があれば教えてください 最終的にユーザが自分でデジタルがいいか、アナログが良いかを選択しています。それぞれが自分にとって一番良い残し方を選んでいます。実物があるという感覚が大事という人も多いです。 各学校で提供しているコンテンツは一緒ですか? コンテンツは学校ごとに自分たちで選択して決めています。 オープンアーキテクチャは一般デベロッパーが参加できますか? すでに公開されています。認証情報を含めて公開されています。 このプラットフォーマーは誰ですか? 国のスタンスは民の中で広めていって欲しいという考えです。我々、NTTコミュニケーションズでも提供していこうとしています。仕様を考えるのは今は国と我々ですが、最終的には団体を作る予定です。

講演3:制作現場からみた「EdTech業界」

登壇者:株式会社エレファンキューブ代表取締役 支倉 常明様 学校だけではない教育現場を紹介します。これまでの経験で、3つのEdTech業界があります。 - 企業研修 - 子供向け - 個人の学び まず企業研修です。eラーニングは2000年代初頭にはじまりました。2005年には下火になり、2008年にはリーマンショックで一気に教育予算が減りました。その後ですが、市場は落ち着きつつあります。特に市場規模が縮小した訳ではありません。また、動画の活用が非常に増えています。従来は教材をインタラクティブに作っていたのですが、動画によって制作コストは小さくなっています。一言で言えばつまらなくなっていると言えます。 企業研修のこれからについてですが、革命的なものはなさそうです。このまま定着していくのではないでしょうか。そんな中、個人が持っているスマートフォンを利用した学習が加速していくでしょう。 次に子供向けです。これまでの流れとしては2005年に初のデジタル教科書が登場しました。そしてCoNETSが立ち上がり標準化が進められています。それまでは各社が独自に工夫をこらしてきたので、なぜ標準化しなければならないのかと不満の声もありました。 さらに元々は指導者用が多かったのですが、学習者用へと変わってきています。最近では通信教育各社から続々とデジタル版がはじまっています。また、ロボットプログラミング教材が多数出てきました。 今後についてですが、2020年にデジタル教科書が開始します。とは言え、まだまだ黎明期で何が効果があるかないのか、デメリットは何か分からないのが実情です。分からないから面白いとも言えます。変化のなかった教育現場がダイナミックに変化しています。今後、想像もできない教材や活用例が出てくるのではないでしょうか。 子供向けは企業研修と違って、各関係者の気合いが違います。 最後に個人の学びです。まずスマートフォンが普及し、ネットワークインフラが整ったことで、時間や場所の制約がなくなっています。MOOCsなど、高品質な教育コンテンツにアクセスできる機会が圧倒的に増えました。さらに有象無象の教育アプリがあります。半分以上はダメなものばかりですが、面白いものもあります。 代表的なものとしてはフィリピンの英会話があります。これもネットワークインフラの整備が進んだ結果と言えます。さらに英語さえできれば多くのコンテンツにアクセスできるようになっています。 現状は正直よく分かりません。しかし、これまでの格差(学びたくても学べなかったなど。地域やお金の制約)が是正されてきています。 今後はどれだけ「自ら学ぼう」という意識が熟成されるのか、ロボットやドローン、ウェアラブル端末、機械学習とか新しい技術が学びとどうつながるかが鍵ではないでしょうか。その中で思いもよらぬ革命がおきるのではないでしょうか。Pokemon Goなども技術的には昔からあっても使われ方によって革新的です。 EdTechはまだまだ面白くなると考えていますが、地味な市場でもあります。ダイナミックなレスポンスがなく、すぐには儲からないと言えます。アメリカのように何億ドル調達みたいな話にはなりづらいです。私の周囲でも教育は儲からないという話が多いです。 しかし将来につながる意義は大きいと考えています。個人が自ら学ぶ社会、日本だけでなく途上国への教育機会の提供などが魅力です。世界には話し合いなどせず、いきなり殴り合いをしたり、騙し合いが当たり前と言った社会がまだまだ存在します。そういったところにも教育機会が提供できるのがEdTechなのではないでしょうか。 「そんな方法が!」といわれるような、全く新しい学びの体験を作りたいと考えています。 企業研修で個人のスマートフォン利用が進んでいるとのことですが、会社はそれを望んでいるのでしょうか? 今まで教育したくてもできなかったところにコンテンツが届けられるようになるんじゃないかと思います。従業員の人たちにマニュアルを読め、というのは難しいです。チェーン店などであれば入社前に動画を見て個々人で学んでもらうこともできるでしょう。通勤時間中に勉強できるのはメリットだと思います。 紙と比べて学習効果はどうでしょう? まだ結論は出ていないのが実情です。ただデジタル、アナログはあまり関係ないと思います。デジタルのメリットとして過去問のようなものは、すぐに結果が返ってくるメリットがあると思います。 企業研修のモチベーションをどう維持すべきでしょう? 途中で止めて確認問題を挟むという方法があります。動画を見ず、寝ているだけというを防ぐためです。聞くだけではつまらないので、考えさせてから聞かせたり、危機感を覚えさせてから学習させるのが効果的です。


この後、懇親会が開催されました。その途中、LTがあり私がデジタル教科書の中でも使われているAR技術を紹介しました。ゲームで注目されているARですが、実物の教科書に掲げることでスカイツリーを輪切りにして閲覧できる「動く教科書」であったり、旭山動物園のARReaderなどの事例があります。

ARを簡単に実現できる技術&サービスとしてWikitudeがあり、マルチプラットフォームに対応したARアプリが開発できます。 懇親会では皆さんが教育に関してディスカッションを重ねていました。EdTechは次のFinTechという記事もあり、非常に注目度の高い分野であると言えそうです。

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