技術開発部 セキュリティユニットの小林です。
8月上旬にアメリカ・ラスベガスで開催された Black Hat USA 2019 および DEF CON 27 へ参加してきました。その模様をレポートしつつ、初めての方向けのアドバイスも添えてお送りします。
Black Hatとは
Black Hatは1997年より開催されているコンピューターセキュリティに関する世界有数のカンファレンスで、レギュラーイベントとしては毎年アメリカ (USA) 、ヨーロッパ (Europe) 、アジア (Asia) の3地域で行われています。今回参加したUSAはBlack Hatの中でも最も長い歴史を持ち、また参加者の数も最大です。USAの会場は例年ラスベガスのマンダレイ・ベイホテルのコンベンションセンターで、今回は世界112カ国から2万人を超える参加者が訪れました1。
ちなみに本来このイベント全体を指してBlack Hat Briefingsといいますが、よくBlack Hatと略されてますので本稿でもそれに倣います。
イベントは大まかにトレーニング、ブリーフィング、ビジネスホールの3つに分かれています。8月3日から8日までの6日間の会期のうち、最初の4日間でトレーニング、残りの2日間でブリーフィング・ビジネスホールが催されます。
トレーニングはセキュリティベンダーの社員などが提供する講義で、今回は延べ120コース以上開催されました。2日間コースと4日間コースがあり、スタイルも座学とハンズオン、グループワークなど様々です。私はOSINTに関するハンズオンベースのトレーニングを受講してきました。今年からは受講者に対して受講証 (Digital Certificates) が発行されるようになりました。
ブリーフィングはBlack Hatのメインイベントとも言え、セキュリティベンダーやソフトウェアベンダーの社員、研究者らがそれぞれの成果を発表する場です。21のジャンルから、新たに発見した脆弱性や攻撃手法、防御のためのベストプラクティスなど、120を超える発表がありました。日本のニュースサイトでも話題になった、WPA3の脆弱性 "Dragonblood" もここで発表されました。
ビジネスホールは端的に言えば見本市で、ベンダーが製品紹介や小さなプレゼンテーションをしたり、ワークショップやミニCTFが行われていたり、あるいは採用活動を行っていたりと、盛りだくさんの内容です。その一角にアーセナルと呼ばれる会場があり、85以上のオープンソースツールの実演が行われました。ブリーフィングよりも発表者との距離が近く、内容について議論している風景も見られました。
DEF CONとは
DEF CONもBlack Hat同様歴史あるイベントで、今回で27回を数えます。ただ色合いはBlack Hatとはまるで異なり、言うならば「ハッカーのお祭り」という雰囲気です。今年の会期は8月8日から11日までの4日間で、今年の会場はホテル4軒にまたがっていました。
内容はBlack Hat以上に多種多様で、大雑把にジャンル分けしても昼間はプレゼンテーション、コンテスト、ワークショップ、ツール・製品のデモなどが行われているほか、夜になると映画の上映会が始まったり音楽イベントが始まったりと賑やかです。特筆すべきイベントとしては、期中にDEF CON CTFの決勝戦が開催されることが挙げられます。CTF自体の説明はほかに譲りますが、世界最高峰の大会として名が知られており、毎年5月のオンライン予選を勝ち上がったチームが本戦に臨みます。
会場内にはビレッジという仕切られたエリアが各所にあり、ある特定のテーマに関する展示、プレゼンテーション、ワークショップが行われています。一例を挙げるとAI, Block Chain, Cloud, IoTなど技術分野や、Blue team, Red team, Social engineeringなどセキュリティ分野、変わり種ではBio Hacking, Car Hacking, Lock Pickなども見られました。興味深かったのはAviation Villageの一角でアメリカ国防総省のDefense Digital Service (https://dds.mil) という部局が人材を募集していた点で、DEF CONのようなカジュアルな場にも出展して人的リソースを確保しようとしているところに日本との違いを感じました。
会場を歩いていると、謎のQRコードが書かれたポスターが張られていたり(中身は謎のバイナリ)、いきなりクイズを渡してくる人がいたり、必死に何かCTFを解いている人がいたりと、本当にいろいろな人、物に出くわします。ただ散歩しているだけでも楽しいですが、訪れた際にはぜひ何かHackしてみるのをお勧めします。私は休憩所でCrypto & Privacy Villageで配られていたパズルを解いていたところ、隣の席にやってきたトルコ人の青年に「何をHackしてるの?」と声をかけられ、1時間ほどいっしょに解いてくれるという素敵な体験がありました。
ちなみにバッジですらハックできるそうです。組み込み方面で腕に覚えのある方、ぜひデバッグ機材をお持ちになってお越しください。
参加するには
Black Hatは参加登録が必要です。早期割引があるので、参加すると決めたら早めに登録するのがよいでしょう。パスは何種類かありますが、ブリーフィングパス、またはブリーフィング&トレーニングパスをお勧めします。ビジネスパスは安価なものの、ビジネスホールにしか立ち入れません。
とりわけ、トレーニングを受けたい方はとにかく早く登録しましょう。席数がかなり限られているため、4月時点で売り切れ間近となっているコースも見られました。 https://www.blackhat.com/us-19/training/schedule/index.html
DEF CONには早割などはありませんが、Black Hatの参加登録時に同時に購入できるのでそちらがお勧めです。その場合Black Hatの会期中に、 Black Hat会場内の カウンターでDEF CONバッジ(入場証)と引き換えることになります。DEF CONのみに参加したい場合は、会期中に会場の受付窓口で参加費を払えばOKです。
おすすめの歩き方
とにかくまずRegistrationを済ませる
参加登録のことではなく、現地での参加受付のことです。これを済ませないとどこの会場にも入れません。本人確認があるのでパスポートをお忘れなく。
Black HatのRegistrationではバッジ(入場証)のほかバックパックがもらえました。DEF CONのバッジを引き換えた(上述)際には、バッジ、ステッカー、ノートと会場案内の小冊子がもらえました。この会場案内の小冊子がWebサイトを見るよりもよほど良くまとまっていますので、引き換えが始まったら早めに入手しておくことをお勧めします。
スタッフに聞く
Black Hat, DEF CONとも会場が広く、また案内も不十分なので、目的地がわからなくなったらスタッフに聞きましょう。どちらのイベントでもスタッフは同じTシャツを着ており、そこかしこにいます。
身軽な装いで
Black Hat, DEF CONとも会場が大変広く、相当な距離を歩くことになります。動きやすい服装に履き慣れた靴で臨むことをお勧めします。ただ会場の冷房がけっこう強めなので、羽織り物が1枚あるとよいでしょう。またBlack Hatのトレーニングやビジネスホールを訪れる場合、けっこうな量の配布物をもらうことになるのでエコバッグがあると便利です。
Black Hatはアーセナルに注目
Black Hatでのブリーフィングの内容は (1) 後日スライドが公開される (2) セッションの録画が販売される――ものの、アーセナルの発表ではそのような手当てがありません。ブリーフィングとアーセナルは同時進行で行われているため、もしアーセナルに気になる内容があればそちらを優先することをお勧めします。Black Hatで発表された内容はDEF CONでも同じ内容で発表されることがあるので、DEF CONのスケジュールにも注目です。
DEF CONの無線LANに注意
DEF CONは会場で無線LANによるインターネット接続サービスを提供していますが、適切に暗号化されたSSID (DefCon) のほか、まったく暗号化されていないSSID (DefCon-Open) が飛んでいます。前者は安全に使えるものの、後者は何をされるか分からないので、接続したければそれ専用に「まっさらなラップトップ」を持参することをお勧めします。
会場では、DefConという名の「暗号化されていない」アクセスポイントを実際に観測しました。これはユーザーを騙して(暗号化されていると勘違いさせて)通信を横取りしようとするものと思われます。私も危うく接続しかけたので、多少気を引き締めねばと思いました。一部の危険な無線LANはPacket Capture VillageのWall of Sheepにつながっており、Webサービスやメールのユーザー名・パスワードを送信しようものならここで晒し上げられてしまいます(さすがにパスワードは一部がマスクされますが)。
最後に
次回は、Black Hatで見聞きしてきたテクニカルな内容を、同じチームの星野より紹介します。
なおBlack Hatのクルーが撮影した写真アルバムはこちらからご覧になれますので、併せてご覧ください。 https://www.flickr.com/photos/blackhatevents/albums/72157710161031186