この記事は NTTコミュニケーションズ Advent Calendar 2021 の11日目の記事です。
はじめに
ヒューマンリソース部の岩瀬(@iwashi86)です。普段は、全社の人材開発・組織開発を推進しており、業務の1つとして、"1on1" の全社展開をしております。
本記事では、その"1on1"の効果を高める具体的な技法を紹介いたします。アドベントカレンダーということで、ゆるめに書いてみます。*1
NTT Com における1on1の目的とは?
技法を説明する前に、1on1の目的について説明します。技法はあくまで目的達成に向けたHowでしかないためです。
1on1の目的とは何でしょうか?1on1それ自体には、複数の目的が挙げられます。代表的なところで言えば次のようなものでしょうか。
- 信頼関係の構築
- 離職率の低下
- メンバー育成
- 目標達成へ向けた支援
- etc...
どれが正解というものではなく、会社の置かれたコンテキストによって何を目的とするかが変わります。
NTTコミュニケーションズでは、1on1を "メンバーと1対1で行う、メンバーの成長支援を目的としたコミュニケーション" と定義しています。すなわち "成長支援" を主目的として置いているということです。*2
1on1の効果を高める3技法
この1on1の効果を高めるために、具体的にどのような行動をすれば良いのでしょうか?様々な書籍やセミナーで1on1は解説されていますが、ここでは特に筆者が有効であると考える技法を紹介します。*3
前提として、マネジメント目線の技法になっています。
1. 観察 -> メモ
1on1でチームメンバーの成長を促すためには、メンバー自身に内省を促し経験学習サイクルを回す必要があります。経験学習サイクルを簡単に表現すると "経験を振り返り、概念化・抽象化し、次の場でTryする" がループする学習モデルのことです。*4
経験学習サイクルの起点となるのは"経験"です。経験はもちろん、1on1でチームメンバーから聞きだす方法もありますが、おすすめは普段から徹底的にチームメンバーを観察する方法です。たとえば、次のような方法があります。
- オンラインでの打ち合わせにおける発言や表情を見ておく(この際は、他の参加者のリアクションも見ておく)
- SlackやTeamsでの発言に目を通す
- Pull RequestのReviewコメントを読む
徹底的に観察をすると、「あ、これはすごい!」「うーん、この発言はどうだろう」など様々な気付きがあるはずです。この気付きを忘れないうちに、チームメンバーごとのドキュメントにメモしておきます。(メモしないとすぐに忘れます…)
メモした内容は、次の1on1でフィードバックします。具体的には「一昨日のミーティングでの、XXという発言は素晴らしかったね。ミーティングのゴールに一気に近づいたと思います。」というように、その行動と起きた結果について伝えます。そして次の問いを投げかけます。
「あの発言は、どういう考えから生まれたのでしょうか?」
と、良かった要因を掘り起こしにいきます。経験学習サイクルでいう "振り返り -> 概念化・抽象化" をチームメンバー本人に自ら振り返ってもらうようにします。上手く抽象化できれば、次回以降に再現性を高められるようになります。次のTryにつながりやすくなるということです。
この際、上手く概念化・抽象化できることもあれば、そうでないこともあります。マネージャー側から次の問いを投げかけて助け舟を出すこともありますが、個人的には短くとも1分待つ方法をおすすめします。最終的には、自身で自然と内省できると良いので、思考の癖をつけてもらうためです。(この待っている時間は、永遠と感じられることがあります笑)
突然ですが、となりのトトロという映画をご存知でしょうか?劇中の1つのシーンで、登場人物・キャラクターであるサツキ・メイ・トトロらが小さな畑をぐるぐる回って、埋めてある種に向かって「のびろー」と体を上下に伸ばすシーンがあります。*5
筆者個人のイメージでは、概念化を待つ時間はこれにそっくりでチームメンバの前で、上手く概念化の芽がでてこーい!」と心の中で、常に応援している感じです。
2. 問いの手数を増やしておく
1on1ではチームメンバーのレベルや置かれている状況に応じて、コーチング・ティーチング・カウンセリングなど複数の手法を組み合わせることになります。特にコーチングスタンスで接する場合は、チームメンバー自身のありたい姿や、抱えている課題を気づいてもらうように、複数の問いを投げかけます。この問いも無数にありますが、次のような例があるでしょう。
- 目標設定
- 1年後、どんな状態になったらうれしいですか?
- ここをこのようにしたい、と思っていることはありますか?
- (目標がない場合は) いままでの経験で、一番うれしかったことはなんですか?
- 現状確認
- いまどのような状況ですか?
- 100点満点だと何点ぐらいでしょうか?
- 目標に向けて、一番ブロッカーになっているのは何ですか?
- 手段検討
- 課題に対してどのような手段が考えられますか?
- 他にどのような方法がありますか?
- このような方法もありえますか?
- 次のアクション
- どの方法が最も良さそうでしょうか?(優先順位で1位はどれですか?)
- いつまでにできそうでしょうか?
- 私が手伝えるものはありますか?
このような問いを、ぱっと思いつけるようにしておくと1on1の流れが非常にスムースになります。*6
ダイアモンド社出版の書籍"1兆ドルコーチ――シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え "では、次のように記載されています。
ビルのリスニングは、たいてい山のような質問を伴った。ソクラテス式の対話だ。2016年の「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌の論文によれば、こうした質問の姿勢は、すぐれた聞き手になるために欠かせないという。
山のような質問をするためには、経験豊富でない限り、事前に質問の引き出しを持っていた方が良いと筆者は考えています。では、どのようにして問いの手数を増やせば良いのだろうか、と思われるかもしれません。質問・問いに関する書籍が多く出版されていますので、2-3冊ほど手にとってメモしておくのが良いと筆者は考えています。
強いて1冊をあげるとすれば翔泳社から出版されている "対人援助の現場で使える 質問する技術 便利帖" がおすすめです。1on1特化の書籍ではありませんが、体系的に質問が整理されており、1on1へ応用可能なものばかりです。
3. マネージャー自身も内省する
ここまで、チームメンバー自身の経験学習サイクルを回すことで、チームメンバーの成長支援を促す流れで説明してきました。もちろん、1on1はチームメンバーのための時間ではありますが、そこから成長するのはチームメンバーのみではありません。マネージャー自身も成長できます。
そこで、"1on1"という経験を起点として、次の内容を自分の中で振り返りします。
- 1on1で上手くいったこと、いかなかったことは何だろうか?
- なぜ上手くいった、いかなかったのか?
- どうすればもっと上手くできただろうか?
- 優先順位の高い方法はどれだろうか?
と、まさにここまで紹介してきた2つの技法を自らに適用するわけです。さらに上位のマネージャが、経験から学びを引き出してくれる機会もあると思いますが、その機会を待たねばならないわけではありません。マネージャ自身も内省することで、常に成長することで、チームメンバとお互いに成長する関係が望ましいと、筆者は考えています。その意味で、1on1の最後にチームメンバーに対して「(1on1に限らず)もっとこうすればよくなる、ということはありますか?」と問いかけるのも有効だと考えています。
おわりに
ここまで、1on1の3技法を紹介してきました。1つでも参考になる点があれば幸いです。
それでは、明日の記事もお楽しみに!
*1:技術ブログですが、1on1の"技法"ということでご勘弁を!
*2:もちろん全ての1on1の目的を、成長支援に限定しているわけではありません。1on1を行うメンバーの置かれた状況によって、目的は変化します。
*3:会社の公式見解ではなく、筆者自身の考えが強く出ています。
*4:正確には Concrete Experience -> Reflective Observation -> Abstract Conceptualization -> Active Experimentation です。
*5:BGMで、風の通り道が流れているシーン
*6:筆者は、個人用のカンペを持っています。なお、コーチングを学んだ方ならピンとくるかもしれませんが、記事の質問例はGROWモデルに沿った流れです。